最果ての地

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最果ての地

 安堵の息を吐く私は、僅かに表情を和らげた。 先程より幾分か冷静になり、涙を止める。 泣き腫らした顔を隠すように俯くと、旦那様は涙で濡れた頬を優しく拭いてくれた。 「とりあえず、僕の担当する管理領域まで行こうか。ここでは、ゆっくり話も出来ないからね」 「担当する……?領域……?」  聞き慣れない単語に首を傾げる私は、パチパチと瞬きを繰り返す。 困惑気味に眉尻を下げると、旦那様は僅かに目を見開いた。 「あぁ、そう言えば説明がまだだったね。天界に住まう神々はそれぞれ、自分の領域を持っているんだ。管理領域の環境や設備は神によって違うけど、大体自分の権能や役割に合わせて調整している」 「そうなんですね。では、ここはどこなんですか?」  納得したように頷いた私は、更なる質問を投げ掛けた。 『随分と殺風景な場所だけど……』と思案する中、旦那様はふと辺りを見回す。 「ここは天界の果ての果て……最も下界に近い場所だよ」  果ての果て……ということは、人間界(下界)で言う辺境みたいなものかしら? じゃあ、旦那様は私を迎えるためにわざわざ、ここまで来てくれたの……?  『自分のために行動してくれたのか』と感動する私は、少しだけ頬を緩める。 歓喜に満ち溢れる私を前に、旦那様はスッと目を細めた。 「一先ず、説明はこのくらいでいいかな?」 「あっ、はい……!ありがとうございました……!」  慌てて感謝の言葉を口にした私は、ガバッと勢いよく頭を下げる。 『丁寧に説明して頂いて、助かりました』と述べると、旦那様はクスリと笑みを漏らした。 「礼には及ばないよ。それより、早く行こうか」  『ほら』と言って、旦那様はこちらに手を差し伸べる。 そして、何かを思い出したかのようにスッと目を細めた。 「そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕は────生命を司る神レーヴェン。君の名前は?」  ふわりと柔らかく微笑む旦那様を前に、私はハッとする。 「も、申し遅れました……!メイヴィスです……!」  慌てて自己紹介を行った私は、躊躇いがちに旦那様の顔色を窺った。 「メイヴィスか。いい名前だね。改めて、よろしく頼むよ」 「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」  ニコニコと機嫌よく笑う旦那様にホッとし、私は控えめにお辞儀した。 『粗相のないように』と細心の注意を払う私に、旦那様はニッコリと笑いかける。 「畏まる必要はないよ。君は僕の花嫁なのだから、もっと気楽に接しておくれ」 「は、はい……!」  思いがけない言葉に目を見開く私は、コクコクと何度も頷いた。
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