ティータイム

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ティータイム

 天使相手に砕けた口調で話し掛けるなど、恐れ多いと遠慮したものの……結局、カシエルに押し切られてしまった。 なくなく敬語を外した私は、促されるまま歩き出し、城に足を踏み入れる。 そして、城内を軽く案内してもらい、客室に通された。 金色のソファに腰掛ける私は、カシエルの淹れてくれた紅茶に口をつける。 天界でも紅茶の味は変わらないようで、普通に美味しかった。  カシエルの話によると、かなり仕事が溜まっているようだけど、呑気にお茶を飲んでいていいのかしら……?旦那様は生命を司る神なのよね?  内心小首を傾げる私は、隣に座る旦那様にチラッと目を向ける。 でも、当の本人はあまり気にしていないようで、特に焦った様子もなかった。 「あっ!そう言えば────メイヴィス様は何で二年も早くこちらにいらしたんですか?当初の予定では、二十歳の誕生日に天界へ来ることになってましたよね?」  忘れていたと言わんばかりに手を叩くカシエルは、『事故死ですか?』と軽い調子で尋ねてきた。 ちょっとした世間話のつもりなのか、彼に全く悪気はない。 子供のように無邪気に、至極当然の疑問をぶつけただけだ。 でも────今の私にとっては、無神経な発言でしかなく……否応なしに当時の記憶を思い出してしまう。 沸騰した鍋から熱湯が溢れ出すように、死の恐怖と絶望が甦ってきた。  人々の罵声、憎悪の眼差し、剥き出しの悪意……そして、この身を焦がす灼熱の炎。 処刑台に立たされた時の状況は、自分の心情も含めて全て覚えている。色褪せて消えることなど、絶対に有り得なかった。  旦那様との出会いや天界の見物に気を取られて、すっかり忘れていたけど、私は……死んだのよね。人々の悪意と己の不甲斐なさによって。  教会に裏切られるなど微塵も考えなかった自分に、私は少しだけ嫌気がさした。 『何故、大丈夫だと決めつけたのか……』と後悔する中、私は旦那様とカシエルを交互に見やる。  旦那様とカシエルは死亡に至るまでの経緯や原因を聞いて、どう思うのだろう?やっぱり、失望……するかな? だって、私には生き残る道があったのだから。事故死とは、訳が違う。 もし、死を選んだのは私自身だと知ったら……二人はどう感じるだろう?  『早く会えて嬉しい』と言ってくれた旦那様でも、やはり……情けないと嘆くのでは?いや、もしかしたら、『それでは、まるで話が違う!』と激怒するかもしれない……。
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