助け船

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助け船

 ティーカップを強く握り締める私は、敢えて死を選んだ現実に苦悩する。 『もっと上手く立ち回れば、こんなことにならなかったのに……』と落ち込み、自責の念に駆られた。 「メイヴィス様、どうかなさいましたか?あっ!もしかして、答えづらい質問でした?」 「い、いや……そういう訳じゃ……」  心配そうにこちらを見つめるカシエルに、私は曖昧に微笑む。 『そうです!』と断言するのもなんだか違う気がして、言葉を濁した。 どうするべきか分からず、煮え切らない態度を取る中────旦那様はスッと目を細める。 「死後まもないメイヴィスに、死因を尋ねるのは(こく)だよ。まだ死亡した時のショックだって、抜けていないのだから」 「あっ、そうですよね……!これは大変失礼しました!」  『すみません!』と頭を下げるカシエルは、配慮に欠けた発言だったと詫びる。 平身低頭という言葉が似合う彼の謝罪に、私は慌てて首を横に振った。 『大丈夫だから』と彼に言い聞かせ、何とか顔を上げてもらう。  叱られたカシエルには申し訳ないけど、正直助かったわ。さすがにまだ死因を話す気にはなれなかったから……いずれは正直に打ち明けなければならないけど、覚悟を決める時間が欲しかった。  問題の先送りに過ぎないと理解しつつも、私は沈黙を選ぶ。 『出来ることなら、最後まで隠し通したいのだけど……』と思い悩む中、旦那様はゆっくりと立ち上がった。 「とりあえず、今日は解散しようか。そろそろ、溜まった仕事を片付けなきゃいけないし。何より、メイヴィスの体調が心配だからね」  慣れない環境に身を置く私に、旦那様は最大限の労りと気遣いを見せる。 「今日は色々あって、疲れただろう?遠慮せず、早めに休むといい────カシエル、メイヴィスを部屋まで送ってあげて」 「了解しました!」  勢いよく席を立ったカシエルは、ビシッと敬礼した。 『さあ、行きましょう!』と促す彼に一つ頷き、私もソファから立ち上がる。 『また後でね』と手を振る旦那様に会釈してから、私はこの場を後にした。
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