束の間の幸せ《ロゼッタ side》

1/1
前へ
/110ページ
次へ

束の間の幸せ《ロゼッタ side》

 ────偽聖女メイヴィスの公開処刑が決行された次の日。 私は大変晴れやかな気持ちで、慈善活動に勤しんでいた。  平民向けの治癒院で働く私は、次期聖女として人々の傷を癒していく。 平民だと見下さず、丁寧に対応しているせいか、私の人気はまさにうなぎ登りだった。  メイヴィスから聖女の座を奪ってからと言うもの、私の人生はまさに順風満帆! これ以上ないってくらい、幸福で満ち溢れているわ! やっぱり、メイヴィスを排除したのは正解だったわね!  鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌な私は、ニコニコと笑みを振り撒いた。 「さあ、次の方どうぞ」 「は、はい!失礼します!」  立て付けの悪い扉の向こうから田舎臭い青年が現れた。 両腕に包帯を巻き付けている彼は少し頬を赤くしながら、患者用の椅子に腰掛ける。 炭鉱の仕事でもしているのか、彼からは汗と土の臭いがした。  顔はまあまあだけど、清潔感のない男は無理なのよねぇ……まあ、好感度を維持するためなら、いくらでも我慢するけど。  現在、私のイメージは誰にでも平等に接し、平民の現況を憂う聖女様……という事になっている。 まあ、まだ就任式を行っていないため、正式な聖女ではないのだけれど……。 でも、私が聖女になるのはもはや決定事項。このイメージを保てば、反対者なんて出ないだろう。 「腕を怪我されたのね……かなり痛いでしょう?」 「い、いえ!全然大丈夫です!ちょっと腕の感覚がないだけなので!」  いや、腕の感覚がないのは相当不味いでしょう……。 この男は、健康管理もまともに出来ないのかしら?  と内心男性を馬鹿にしながらも、表情は崩さない。 あくまでも彼の怪我を心の底から、心配する優しい聖女を演じる。 「強がりはいけませんよ。さあ、腕をこちらに────《ヒール》」  差し出された腕にそっと触れると、私の魔力が彼の怪我を内側から癒していった。 王国一の治癒魔法の使い手と言われる私は、たった一度の詠唱で彼の怪我を治してしまう。 この癒しの力こそが、私の最大の武器。  幸い、骨には異常がないようね。これなら、直ぐに動いても大丈夫そうだわ。 「わあ……!!す、凄いです!!怪我を一瞬で治してしまうなんて……!!さすがは真の(・・)聖女様ですね!」 「うふふっ。ありがとう。そう言って貰えて、とっても嬉しいわ」  興奮した様子で目を輝かせる青年に、私はニッコリ笑いかけた。 すると、彼は照れ臭そうに頬を赤く染める。 そういう初心な反応が、何とも可愛らしかった。  この子はよく分かっているわね。聖女に相応しいのはメイヴィスじゃなくて、この私。 あんなお飾り女と優秀な治癒魔法の使い手である私じゃ、天と地ほどの差がある。 だから─────私が取った行動は間違いじゃない。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

197人が本棚に入れています
本棚に追加