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聖女就任式《トリスタン side》
────メイヴィスの公開処刑から数日の時が経過し、私は王族としてロゼッタの聖女就任式に出席していた。
就任式の会場には各国の王族や上位貴族が多くおり、ステージでは聖女就任の儀が執り行われている。
新調した祭具を教皇聖下から献上されたロゼッタは、誇らしげに胸を張った。
「以上をもって、聖女就任の儀を終了とし、ロゼッタ・グラーブ・ジェラルド公爵令嬢を新たな聖女に任命する!新聖女ロゼッタに盛大な拍手を!」
偽りの聖女を断罪し、真の聖女として君臨したロゼッタの人気は凄まじく、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
が────盛り上がる会場とは裏腹に、私の気分は急降下していった。
はぁ……新聖女ロゼッタ、か。
確かに優秀ではあるが、外見の華やかさが足りない。やはり、あの祭服も新調した祭具もメイヴィスの方が似合っている。
今更かもしれないが、メイヴィスのことは殺すべきじゃなかった……変な意地など張らず、攫ってしまえば良かった。
そうすれば、あの美しい女は私の手元に残ったというのに……一度も抱かずに死なせるなんて、私も勿体ないことをしたものだ。
新聖女となったロゼッタを見る度、メイヴィスを思い出す私は後悔の念に苛まれる。
心ここにあらずといった様子でステージを眺める中、就任式を終えたロゼッタが舞台脇に捌けて行った。
「トリスタン王子、今のうちにロゼッタ様に挨拶しておいた方が良いのでは……?共に偽聖女メイヴィスを排除した仲間でしょう?」
側近の一人がコソッと私に耳打ちする。聖女と太いパイプを持てれば、何かと便利だと考えているのだろう。
はぁ……挨拶なんて面倒臭いことこの上ないな。
メイヴィスなら喜んで会いに行くが、ロゼッタだと、どうもな……気が進まない。
「挨拶なんて、父上と母上に任せれば良いだろ。私はさっさと王城に帰還する」
「で、ですが……!」
「くどい!お前は黙って私の言うことを聞いていれば、良いんだ!」
「っ……!!畏まりました……余計なことを言ってしまい、申し訳ありません」
喉元まで出かかった言葉をグッと呑み込んだ側近は、深々と頭を下げる。
まだ何か言いたげではあるが、これ以上文句を言うことはなかった。
ふんっ!ちょっと怒鳴っただけで口を噤むなら、最初から何も言うな!大変不愉快だ!
私は苛立たしげにチッ!と大きく舌打ちすると、席を立つ。
めでたい日だと言うのに怒りが収まらない私は、不機嫌なまま会場を後にした。
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