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訪問者
あら……?今度は誰かしら……?
訪問者に心当たりのない私は、コテリと首を傾げた。
でも、ここであれこれ考えても埒が明かないと判断し、顔を上げる。
「どうぞ」
「失礼します」
入室の許可を出すなり、訪問者は直ぐさま扉を開け放った。
慌てた様子で部屋に入れると、恭しく頭を垂れる。
「お食事中、申し訳ございません。レーヴェン様に至急お伝えしたいことがあり、無礼を承知で馳せ参じました」
凛とした面持ちで、謝罪と釈明を口にしたのは────天使のカシエルだった。
ただならぬ雰囲気を放つ彼に気後れしつつ、私は『気にしないで』と首を左右に振る。
『ありがとうございます』と礼を言うカシエルは一拍置いてから、旦那様に目を向けた。
「レーヴェン様、例のアレを発見しました」
わざと言葉を濁したカシエルは、『中身を確認して欲しい』と申し出る。
合言葉にも似た言い回しに、私は思わず首を傾げた。
例のアレって、一体何のことかしら……?
もしかして、仕事関係のこと……?なら、あまり詮索しない方がいいわよね。
神の花嫁とはいえ、そこまで口出しできないし……。
『身の程を弁えるべきよね』と判断し、私は喉元まで出かかった言葉を呑み込む。
我関せずを貫き通す中、旦那様はスッと目を細めた。
「分かった。直ぐに行く」
神妙な面持ちで頷くと、旦那様はこちらに向き直る。そして、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「すまない、メイヴィス。重要案件の報告みたいだから、僕はこれで失礼するよ。この埋め合わせはどこかで必ず……」
「いえいえ、お気になさらず……お気持ちだけで充分ですわ」
フルフルと胸の前で手を振り、私は表情を和らげる。
旦那様の負担にならないよう笑顔で送り出すと、彼はそっと席を立った。
『また後でね』と私に声を掛けてから、カシエルと共に退散する。
徐々に遠ざかっていく足音を聞き流し、私は一息ついた。
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