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嵐の前の静けさ
────それから特に何事もなく、時は過ぎ去り……プロポーズ騒動から、一週間ほど経過した。
不気味なほどいつも通りの日常に、私は一抹の不安を覚える。
平和だ……あまりにも平和すぎる。まるで嵐の前の静けさみたいだわ。
あれだけ怒らせたというのに、トリスタン王子が何もして来ないなんて……明らかにおかしい。
彼のことだから、寄付金を餌に教会を脅すくらいやると思ったのに……何故、何もして来ないのかしら?
別件でこちらに構っている余裕がないのかしら?もしくは私のことを諦めたとか……?って、それはないか。前者はさておき、後者は絶対に有り得ない。
仮に私のことを諦めたとしても、王子に恥をかかせた罰だといって、何らかの報復はしてくる筈……。
「はぁ……考えれば考えるほど、分からなくなるわね」
トリスタン王子の行動が読めず、私は頭を悩ませる。
────と、ここで部屋の扉がノックされた。
「聖女様、ハワードです」
「どうぞ、入って」
「失礼します」
そう言って、部屋の中に入ってきたのは金髪碧眼の男性だった。
ハワードはペコリと一礼すると、数歩前に出る。
「聖女様、第一王子とその一行が面会を求めています。至急、聖女様にお伝えしたいことがあるそうです。どうなさいますか?」
噂をすれば、何とやらね……。
今度は一体、何をやらかす気なのかしら?
今は聖誕祭の準備で忙しいから、面倒事は出来るだけ避けたいのだけれど……だからといって、無視する訳にもいかないわよね。
「はぁ……とりあえず、会いに行ってみましょう」
「畏まりました。それでは、客室までご案内致します」
『さあ、こちらへ』と言って、出口へ促すハワードに頷き、私は歩き出した。
────この決断が後に酷い惨劇を引き起こすとも知らずに……。
『私は聖女だから大丈夫』という油断が、悲劇を生むのだった。
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