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「まあまあ、なんともまあ。恥知らずな殿方もいるもので」
「まこと、まこと。恥ずかしや恥ずかしや」
「ああいやだ。どこの家柄かしら。初夜に稚児を求めるなど」
今のは、三人官女?
「あなたの奥は、そんなに……満足ゆかなかったのかな?」
「貴様!」
「なにかな? 痴れ者。貴殿には、いずれ大きな罰がくだろうぞ。貴殿の隣で修羅のように顔を歪めていた者に、歌でも読んでさしあげたらいかがかな」
「奥方様にお伝えくださりませ。わたくしたちの大切ないとし子に悪さをしたら、天罰がくだりますよ、と」
その後は無音となった。私は、怖くて真相が確かめられず。そのまま寝てしまった。いや、気絶したのか。
その翌日だ。祖母が来て、両親は大喧嘩となり。ひな人形が滅茶苦茶に壊されたのは。
そうして一年経ち、今私の目の前には睨みつけるお雛様がいる。お内裏様は、普通だ。あの時の人形とは違う。でも、お雛様は。糸のような目がカッと見開いて、私を確かに睨みつけている。
「メイちゃん、雛あられ食べようね」
祖母が来ると人形は普通となる。すまし顔、とでもいうのか。私がうったえても無駄だなと悟った。
結局当たり障りない会話をして、帰ろうとした時。このまま一緒に暮らそうと私を掴んで放そうとしない祖母が怖くなり、私は泣きだしてしまった。その声を聞いた近所の人がかけつけ、祖母と口論のようなことになり。とうとう警察が呼ばれた。いくら血縁でも、親権がないなら誘拐となりますよと警察から注意を受けて。祖母はしぶしぶ私を警察に引き渡した。
「おばあちゃんなんて大っ嫌い!」
そう泣きながら叫んで、私は迎えに来た大好きな方のおばあちゃんに抱き着いたのだった。
今思えば、寂しい思いをしていたあちらの祖母には悪い事をしたけれど。その日はおばあちゃんと一緒の布団で寝ることにした。そして、飾ってあったあのお内裏様たちに愚痴を言ってしまった。
「酷いでしょ!? あのお雛様も嫌い、私のことじろじろ見て!」
ふん、と一通り怒ってすっきりした。
「うちのお内裏様たちは、幸せそうに笑ってて大好きだよ」
ふふ、と笑って寝たのだが。翌日、家の中がバタバタしていた。祖母は何度もいろいろな所に電話をしている。
「どうしたの?」
「あ、えっと。めいちゃん、ちょっとおばあちゃん出かけてくるね」
「私も行く?」
「ううん、お留守番しててくれる? 新聞の集金がくるんだけど、払えるかな?」
「できるよ!」
お遣いを頼まれたことが嬉しくて私は嬉々として留守番を買って出たのだが。その日、父方の祖母が亡くなったと知った。病気だ、と祖母は教えてくれたけど。嘘だなとわかった。目が泳いでいたから。
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