ひな祭りの宴

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 この頃から母は心を病んでしまって、病院に入院となった。私とは会いたくない、と面会を拒絶。私は母方の祖母の家に引き取られた。  こちらの祖母が送ってくれたひな人形は私がしっかり隠していたので無事だった。そしてそれを次の年に飾ろう、と言うと祖母は涙目で喜んでくれた。 「嬉しいねえ。メイちゃん、とっておいてくれたのね」 「うん。私、こっちのお雛様の方が好き」 「ほら、あちらさんが送ってくれたお人形。百万くらいする立派なものだって聞いたから。こっちは恥ずかしいんじゃないかと思ってたよ」  いちいち嫌味を言うために連絡をしていたらしい。百万、の価値が当時はわからず。ふうん、とだけ言った。 「でもね。あっちのおばあちゃんには悪いけど。私、こっちの方が好きなの。だって可愛いもん。あっちのお人形、真っ白な顔してブスっとしてるの。こっちのお内裏様たち、にこにこ笑ってるしお化粧もきれい」  現代風なアレンジだ。人形の顔が怖い、という意見も増えてきて漫画のような見た目の人形なども売られるようになった。お年寄りたちからはウケが悪かったようだが、現代はそういうものが好まれつつある。 「メイちゃんに似合うかなあと思ってね。良かった、ありがとうね」 「おばあちゃんがありがとうなの? 変なの。私じゃない? 言うのは。ありがとう、おばあちゃん」  その後父は再婚したが子供はもういいと言ったらしく、父方の祖母が私に会いたがっていると連絡があった。私は祖母の事は嫌いではなかったから会う事にしたのだけれど。  今の田舎の生活なんて窮屈で不便だろう、おばあちゃんと一緒に暮らそう、と言ってきた。私は新しい学校が好きだし、別に困っていないと断ったのだが。 「新しいひな人形買ったのよ。前はあの酷いヤツに壊されちゃったからね。メイちゃん、見に来てよ。最近はお父さんも家に来ないし電話もしてこなくて。おばあちゃん寂しいの」  お父さん、とは私のお父さん。つまり息子と連絡が取れなくなっていたということだ。せっかく買ってくれたのなら、と私は祖母の家に行った。家について部屋に入ると、それは立派な雛段が飾ってあった。 「わー、すごいね」 「でしょう、でしょう」  にこにこと嬉しそうな祖母。でも、やっぱり無表情のお人形はちょっと怖いなあと思っていたのだが。 「……。おばあちゃん、これ前のお人形とおんなじ?」
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