ひな祭りの宴

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「うん? 違うわよ、メーカー……ああ、つまり作ってる会社が違うけど?」 「そう? お雛様、同じ顔に見える」 「あはは、お人形はみんな同じお顔だからねえ」  違う。あの壊された人形と同じだ。同じ型で形成された、という意味じゃない。 なのだ。  だって。あの時と同じように。  私を睨んでいる。  立派なひな人形のお雛様が苦手だった。あの日、父方の祖母が来る前日。仕方なく母はもともとあったひな人形を片付けて立派なやつを飾ったのだけれど。 「お母さん。お雛様、私のこと睨んでる」 「ん? ああ、無表情だから怖いよね。ほんと、可愛くない」  そうじゃない。睨んでるのだ。はっきりと、私を。  その日の夜。しまっていた可愛い方のひな人形を私は夜こっそり自分の部屋に置いた。お内裏様とお雛様を、向かい合わせに置く。 「お顔が見えないの、可哀想。お見合いは顔見るもんね」  私は人形遊びをしている感覚だった。そして三人官女も、おしゃべりできるようにと三人を三角形になるように向かい合わせて置いて、ふふ、と満足していると。  カツン。 「?」  何か音がした。不思議に思っていると、外の廊下からカツンカツンと音がする。 「いずこ、いずこ。いとし子はいずこや」  男の声だ。父の声ではない、そもそも父は泊りがけの仕事で家にいない。私は怖くてベッドに飛び込んだ。ギシ、とベッドのきしむ音がする。 「おお、そこかえ。そこにいるのかいとし子」  音を聞きつけてカツカツと音が近づいて来る。怖い、嫌だ、入ってこないで。涙目で毛布にくるまる。隠れなければ。いやでももう音を出せない、どうしよう。寝たふりをしていれば大丈夫だろうか。ガタガタ震えていると。 「ここか――」  私の部屋の前で止まる。そして、カツ、カツ、とドアを叩く。カツ、カツ、ガツン!と音が大きくなる。 「!」  私は怖くてぎゅっと目を閉じる。怖い怖い怖い、助けてお母さん。声が出てしまいそうなとき。 「無礼者」  別の声。私の部屋の中から聞こえた。 「初夜を訪ね申すとは、育ちの悪さがわかるのう」 「なんだと!?」  男の人たちの会話。もしかして、お内裏様? 「お引き取りを。わたくしたちは今大切な夜を明かそうとしております故」  女性の声。とても丁寧だが、少し怒っているようだ。お雛様、だろうか。あり得ない事態に私はパニックだった。
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