ひな祭りの宴

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 収入は年金と畑でとれた野菜の販売のみ。母の入院費支払いで生活が苦しかった祖母。でも私が高学年になるころにハンドメイドがネットでバズって、なんと結構な額が収入として入るようになる。今はこんなこともできるのねえ、と祖母は驚いていた。手が器用な祖母に手伝ってもらって、二人で生活費をハンドメイドで稼ぐという安定した生活を送って。  あれから月日が経った。母が、病院で自殺をしたと連絡を受けたのは私が卒業を控えた日。泣いている祖母と二人で、母を偲んだ。  その日の夜。荷物をしまっているクローゼットから、すすり泣く声がした。怖くなかった、泣いているのが「誰」なのかわかったから。 「すまぬ、すまぬ」 「我らの力が及ばず申し訳ない。()のもの、まさかあそこまで……」 「奥方の方が、念が強いとは……」  翌日、私はひな人形を出して一人ひとりの髪を撫でた。お雛様は、どこか悲しそうだった。  私は父と連絡を取った。もう再婚していて、そちらの家庭に興味はないけど頼みたい事があると連絡をしたのだ。 「おばあちゃんの荷物、処分したんでしょ。ひな人形って捨てた?」 「いや、売れる物は売った」 「リサイクルショップ、教えて」  不思議そうにしている父。そして、今更のようにすまなかったと言ってきた。どうでも良かった、興味ない。  父から教わった店に来た。そこにいた、あの時のひな人形。見事に売れ残っている。当たり前だ、こんな全段揃ったバカでかい雛段など金持ちくらいしか買わないし。古くさいデザインなので不人気なのだ。百万だったって言ってたっけ。値札は五万になっている。 「久しぶり」  人形に語り掛ける私。でもわかる。こいつは絶対聞いている。 「どう? 私きれいになったでしょ。十五歳になったの。お前の男が、小さかった私に発情したのもわかるわ。あんたと違って可愛いもん。今彼氏もいるよ」  ぎり、と歯ぎしりの音がする。 「高校入学も決まった。今生活費は私が稼いでるの、従業員も増えて結構お金持ちになったよ。おばあちゃんがつつましい生活好きだから、散財なんて馬鹿なことしないけどね」 「……」 「売れ残った女って惨め。誰も買わないよ、こんな可愛くない古臭い人形。カビでも生えてるんじゃない? 防虫剤の臭いでもしそう。年相応に皺でも描いてあげようか?」 「……」
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