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「「えええ?! ラブレターもらった?!」」
「しーっ! 2人とも、声大きいですよ……!」
修行の帰り道のこと。制服姿の咲耶、ネム、シャオランの三人は公園のベンチに並んで座っていた。
シノビマートでそれぞれ購入したお菓子や飲み物を食べたり飲んだりしながらしばしの休憩。そこまでは日常茶飯事だったが、今日は一つだけいつもと違うことがあった。
――恋愛ごとに疎い三人が、珍しく女子高生らしく恋バナに花を咲かせようとしていたのである。
「いやでも、誰かのイタズラとか罰ゲームとか、何かの間違いかもしれませんし……」
シャオランはなんてことのなさそうに笑って見せるが、咲耶とネムは好奇心満々といった様子で詰め寄ったままだった。
「そうかなぁ? シャオランって女の子らしくて可愛いし、むしろ今までこういう話がなかったのが不思議なくらいだと思うけど……」
目立ちたがりやでアイドル志望の咲耶は目を輝かせる。運営している自身の忍チューバーチャンネルでネタに出来ないかと、内心で画策しかけたのは秘密だ。
「面白そうだし、試しに付き合ってみれば? まあ、シャオランをからかって送ってきたならぶっ飛ばすけど」
ざっくばらんに応援しつつも、物騒な物言いをするネムにシャオランは慌てた。
「ネムさんがそういうこと言うと、冗談に聞こえないんですよ~!」
「なんでだよ。なめられたら終わりだろ」
いつものやりとりを繰り広げる親友二人を見ながら、咲耶はふと思った。
(あれ? でも、シャオランに恋人とかできたら、ネムは寂しがるんじゃ……?)
こわがりで控えめで繊細なシャオラン。
不器用で大胆で面倒くさがり屋なネム。
正反対の性格の二人だが、なんやかんや腐れ縁というか、よいコンビなのである。
昔はよく男子たちにからかわれていじめられていたシャオランだったが、今はネムが用心棒みたいに傍にいるのでそういうこともなくなった。
逆に、シャオランはネムが不器用で手こずってしまうことをさり気なく手伝ってあげることが多い。互いに互いの長所と短所を補いあっている二人を、咲耶は微笑ましく見てきた。
「ところでさシャオランって、どういう人がタイプなの?」
「ひぇ?!た、タイプ……?!」
咲耶の唐突な問いに、シャオランは顔を真っ赤にして飛び上がった。
「い、いないですよ!そんな、タイプなんて……」
「えー、そうなの?」
「そういう咲耶さんはどうなんですか?」
「え」
まさかの反撃をくらい、咲耶は固まった。咲耶にとってもまた、色恋沙汰は縁遠いものだった。曲りなりにもアイドルを目指しているし、何よりこの三人でつるんでいるのが一番楽しい。
「うーん、私は……おじいちゃんみたいな人かなぁ」
「ええっ、岩爺?!まじか!!」
「咲耶さん、岩爺さまのこと大好きですもんね~」
そう、祖父の岩爺のように夢を応援してくれて支えてくれる理解者。優しくて包容力のある人が咲耶の理想だった。まあ、そんな人には簡単には出会えないと分かっているけれど。
するとシャオランも、はっと思いついたように口を開いた。
「なら、私は……ネムさんみたいな人がいいです!」
「は、はぁ?あたし?!」
突然名前が出たことで、ネムは食べかけのお菓子を取り落としそうになった。
「あほか!なんでだよ!!」
「ええっ、だっていつも私のこと気にかけてくれるし、優しいし、頼りがいもありますし――」
「そんなの、友達なんだから当然だろ」とつっこむネムに、シャオランはニコニコしながら笑顔で言い切った。
「――ネムさんの描く絵も大好きです」
「なっ……?!」
(わあ……)
珍しくカッと頬を紅く染めたネムを見て、咲耶は天を仰いだ。
自分で話題を振っておいてなんだけど、一体何を見せられているんだろう、と。
普段はふわふわしているシャオランだが、意外としっかり者だし人のことをよく見ている。こうと決めたことは丁寧に言葉にするところがあるのだ。
対するネムは昔から何をやっても不器用だったが、絵を描くのだけは抜群に上手かった。芸術肌というか、突出した才能があるからこそ、他の分野でままならないことがあるのかもしれない。
(まあ、シャオランに頼られるの、ネムもまんざらじゃないんだよね……)
これも、一番近くで二人を見てきた咲耶だからこそ断言できることだった。あまり表には出さないが、ネムの方もシャオランのことを大切に想っているのは明らかだった。
どうでもいいと思っている相手に世話を焼くようなマメなタイプではない。シャオランが本当に困っているとき絶対に見放さないのは、そういうことだ。
言葉遣いや態度は荒いこともあるけれど、根は優しいし面倒見がいい姉御肌。咲耶の破天荒な行動にも鋭いツッコミを入れてくるのも、そういう性分だから。そんなことを考えていたら、咲耶はつい心の声が口をついて出てしまった。
「ネムのタイプは、やっぱりシャオラン?」
「咲耶まで何言ってんだよ……!」
照れ隠しをするように、ネムは持っていたペットボトルのジュースをごくごくと一気に飲み干した。
「あたしは別に……シャオランが誰と付き合おうと関係ないし。勝手に決めて、好きにすりゃいいって思ってるけど」
「ええ~ほんとかなぁ?」
「咲耶、しつこい」
ネムはムッとしながら、顔を覗き込んできた咲耶を押しのけた。
「……当然だろ。あたしはシャオランの幸せを願ってるよ」
「ネムさん……!」
シャオランは感激したように目をキラキラと輝かせ、無駄に男前なネムを見つめた。
(やっぱりこの二人ってお似合いな気がするんだよね……)
そんなことを考えつつ、咲耶はシャオランがラブレターの返事は断るんだろうなと容易に想像できた。
「それで?返事はどうするんだよ」
「うーん……申し訳ないですけど、お断りですね」
分かり切ったようなことを質問するネムに、シャオランはきっぱりと言い切って微笑んだ。
「だって、私の一番の幸せは、ネムさんと咲耶さんと一緒に過ごすこの時間ですから」
「シャオラン……」
「……ま、まあ、いいんじゃね?お前が決めたなら」
じーんと感慨深げに瞳を潤ませる咲耶。
腕組をして、何食わぬ顔で明後日の方向を向くネム。
傾きかけた夕日が三人それぞれの表情を照らし出していた。
「それじゃ、そろそろ帰ろっか」
咲耶の一声に、ネムとシャオランも顔を見合わせて頷いた。二人と連れ立って岐路を歩みながら、咲耶は夕焼け空を見上げた。
なんだか結局、大した恋バナにはならなかった気もする。
でも、昼間の学生生活の傍ら、忍者としての修行に励む日々なのだから仕方ない。コンビニの店長と兼業している師匠のコンガではないけれど、これで恋愛という要素まで追加されたら、マルチタスクが過ぎてしまう。
本当はアイドルにもなりたいけれど、ウエディングドレスにも憧れがあるのだが、この話はまた今度、機会があったら二人に話してみようか。
仲良さそうに並んで歩く親友たちの背中を見つめながら、咲耶はスマホを取り出した。
「ね、これ投稿してもいい?」
「おいこら!なに勝手に撮ってんだよ!」
「咲耶さん、だめです~!消してください!」
笑い合いながら駆けていく三人の影が、甲賀シティの道端に楽しげに伸びていた。
【完】
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