【怒涛の1日 part 3】

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【怒涛の1日 part 3】

同日の1月3日。朝8時にセットしていた目覚ましで起きて、重い瞼を手でこじ開けながらスマホを確認する。 僕が乗る予定の東京ー沖縄間の便は、ほとんどが欠便していた。ただ、欠便が確定しているのは1月3日のものであり、予約している1月4日の便は「特別取り扱い」になっているだけで、欠便は確定していなかった。「特別取り扱い」とは、欠便になる可能性が十分にあり、現段階で振替や払戻が可能だという。 ここで、僕の頭には3つの選択肢が浮かんでいた。 一つ目は、欠便にならない可能性に賭けて、そのままか振替を行う、というものである。これのメリットは、新たな航空券を探す手間が省けるのと、値段が当初取得した際の33,000であるという点だ。ただし、大きなデメリットもあった。もし欠便や大幅な遅延をした場合、本命の2日目の早朝のダイビングに間に合わない、ということだ。 そして二つ目は、成田空港で新たな便を取るというものだ。これは、多少空港まで遠くなるものの、2日目のダイビングには間に合うため、かなりの好条件に思える。そして僕も、すぐにこれを検索した。しかしそこである問題が発生した。払戻の手続きなどは、予約の際に仲介となった旅行代理店に拠るという。そのため、払戻に関する様々な確認や手続きを行う必要があったのだ。そして、その間にも、成田の便はかなりの早さで売り切れていく。おそらく、僕と同様の考えの人が多くいたのだろう。予約しようとしても、少し時間的な条件が適合しているか調べている間に、すぐに売れ切れてしまい、前のページに戻されてしまう。このままでは、あっという間に安い航空券(といってもその時点での最安値は往復60,000くらい)は売り切れてしまう。 そして最後の苦肉の策としての三つ目は、関西の空港から沖縄へ飛ぶ、というものだ。仕方ないだろう。3時間しか睡眠していなかったのだ。そのため、僕の首脳会談はその異常な案でさえ、可決してしまったのだ。そして、いくつかのサイトを比較した結果、これは往復40,000ほどだった。しかも残席も十分にあった。 故に、金欠の僕に残された選択肢は、一つ目の待機か、三つ目の奇行のどちらかだった。 そして、その決断に際し、僕は虎次郎に電話をかけた。 結果、彼は超人ではあるが正常者であり、一つ目を選択するべきだと諭してくれた。もちろん、三つ目を選択するならばそれを尊重するが、普通なら一つ目だろう。ある程度遅延しても、欠便しても待つから。彼は優しくそう言ってくれた。 が、僕にとっては、ダイビングをしたいという思いが強すぎて、運に任せるという選択をすることができなかった。そして、異常者の僕は奇行に走る。 すぐに払戻の手続きを行い、関西ー沖縄間の航空券を購入したのだ。ただ、寝不足の僕は一つ見落としをしていた。いや、おそらく頭の片隅では気づいていたのだろう。そう、当たり前のことだった。関西まで行く手段も考えなければいけない、ということだ。そして渋々ながら検索し、絶望に陥る。 関西までは新幹線を使うと30,000。これは論外だとして考え、夜行バスを見る。往復で10,000ほどだった。が、1月7日の夜に夜行バスで帰った場合、次の日の1月8日にはバイトが控えていた。そのため、帰りは四列シートではなく、三列シートで快適に不快(深い)な睡眠を取ることが必須だった。そのため、結局行きと帰り合わせて、15,000になってしまった。 具体的には、夜行バスで横浜から神戸へ向かい、少しした後に飛行機で神戸から沖縄へ向かい、沖縄で3泊4日した後に、飛行機で沖縄から関西国際空港(大阪)へ向かい、最後に大阪の梅田から横浜までバスで帰る、という奇行だ。 が、仕方ない。どうしてもダイビングをしたかったし、虎次郎との沖縄旅行を1日も余すことなく満喫したかったのだ。 そして、さらに問題点があった。夜行バスで関西に向かい、1月4日の飛行機で沖縄に向かうということは、1月3日の夜行バスに乗るしかない。1月3日とは?そう。今日のことである。 深呼吸して部屋を見る。そこには、広げただけで何も入っていない、パッキング未完了のキャリーケースが気怠げに床に寝そべっている。 時刻を見る。15時過ぎ。夜行バスの時間を見る。23時集合。そっと机の上の課題を横に押しやり、カップ麺をつくる。腹が減っては戦はできぬ。腹が減ってはパッキングはできぬ。 そしてご飯を食べながら虎次郎にことの顛末を語り、馬鹿にされた後、ひと休憩した。結局、動き始めたのは17時だった。いろいろ予約の取り直しに奔走してたため、回復には少し時間が必要だった。 その後、なんとか終わり、時間は20時。思ったより詰め込むものはなかった。そして最後に、空いたスペースに夢と希望を詰め込んで、キャリーケースを閉じる。 「よし、完璧!」 どこが完璧なのか。ただ、当時の僕にとっては完璧だったのだろう。独りでそう呟き、軽く時間を潰してから家を発った。 空は暗闇に包まれていたが、月は綺麗に輝きを放っていた。 〜続〜
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