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1
―勇者よ、目覚めよ―
それはいつもと変わらないようで
少し風や空気がいつもとは違い、
動物たちがいつになく吠えたり
暴れたりしていた。
それもすべては何かの予兆
だったのかもしれない。
静かで深く暗い夜だった。
魔法の聖杯が何者かによって盗まれた。
その一報を受けて女王は
窓辺のカーテンを開けた。
窓の向こうにオレンジ色の朝焼けの空と
光が降り注いでいる。
「ついに時は来た」
その頃、王室は大騒ぎだった。
魔法の聖杯が何者かに盗まれた。
魔法の聖杯は世界樹と呼ばれる
この世界の神の命と同様の宝。
魔法の聖杯が盗まれるということは
魔法の聖杯の封印を解いた者が
次期王になるということ。
また魔法の聖杯の力でどんな望みでも
叶えることが出来るということ。
王になるのではない。
魔法の聖杯が王を選ぶのだ。
もし、魔法の聖杯が悪の手に渡れば
世界の破滅を意味する。
悪に知られる前に魔法の聖杯を
なんとしてでも
取り戻さなければ。
王国の最高司令部の神官部の者たちは
魔法の聖杯奪還の命を受けすぐに動き出した。
王国はすぐに通達を出した。
「魔法の聖杯を見つけ
魔法の聖杯に選ばれた者は
魔法の聖杯を使ってどんな望みも
叶えることができる。
そして王国の次期王に迎える。」
王国からの通達で勇者希望者は
後を絶たなかった。
希望者はついに18億を突破した。
人々の野望、欲、望み、希望。
金、権力、地位、名誉、幸福…。
様々思いが交錯する中で
人々の願いは一つ。
「魔法の聖杯を探すこと」だった。
たくさんの過酷な課題テストの中、
一つの課題が与えられる。
光のドラゴン、メタトロンが
勇者を選ぶという古の伝説。
その光のドラゴン、メタトロンは
勇者だけに従うという。
「伝説のドラゴンは王を選ぶ。」
メタトロンに選ばれることも
また試練の一つだった。
たくさんの勇者志望者が
どんどん脱落していく。
そしてそのメタトロンが
10人の勇者候補に懐いた。
これは王国始まって以来、
前代未聞の事態だった。
かつて光のドラゴンが勇者候補
10人に懐いた例はない。
神官部の者はすぐに上層部へ報告した。
課題テストを突破した10人の勇者候補は
最終テストの課題の旅に出た。
最終テストは『魔法の聖杯を奪還せよ。』
魔物が出現する場所は
魔法の聖杯がある可能性が高い。
魔物に荒らされている地域へ
勇者候補を派遣し、
魔物を討伐及び魔法の聖杯を探す
任務を与えた。
全世界から魔物を討伐する勇者を
指名制で依頼してもらう。
指名された勇者候補は現地へ向かい、
討伐を行い魔法の聖杯を探すのだ。
そして一刻も早く魔法の聖杯を取り戻すために
女王は緊急配信を行うことにした。
後日、全世界へ緊急配信される予定になり、
世界樹セフィロト聖杯勇者選抜大会が
開催されることになった。
その頃、異世界の地球では
数日前に都市伝説がSNSで
どんどんシェアされていた。
「●月✖日◎時に
このリンク開くと異世界の扉が開く。
勇者よ、目覚めよ。」
ネットでもちょっとした話題になり
「異世界のリンク」がトレンド入りしたり、
#ひかまほのタグで呟くものが
後を絶たなかった。
ネットの噂なんて信じない。
あなたは馬鹿らしいと思いつつ、
少しだけ気になっていた。
いよいよ配信当日、予定時刻は過ぎた。
ネットでトレンド入りする等
一部の熱狂的な人々が
SNSで拡散する。
配信開始同時刻、
ログインできない者が多数現れた。
リンクもパスワードもあっているし、
ログインできるはずができない。
ログインできない者はまたSNSで呟き
またログイン出来た者は現状を報告した。
「本当に異世界に通じている!」
ログイン出来た者の中には
生配信で実況中継して流すものまで現れた。
どんどん上がる視聴者人数。
あなたは思う。
誰でもログインできるわけじゃないんだ…。
じゃあ、私は?
私はログインできる?
バカらしいと思いつつ、
「異世界の扉」、「勇者」
という言葉に惹かれ、リンクを押して
パスワードを入れてしまう。
怖くて目をつぶり、送信ボタンを押した。
しばらくして目を開けると…
ログイン成功の文字が見えた。
「ログイン出来た…。」
赤と青の炎が揺れている。
Welcomeの文字。
本当に異世界へ?
半信半疑ながら画面を見つめると
双子らしき天使のような人が司会している。
そこに映ったのは
セフィロト聖杯勇者選抜大会の
LIVE配信映像だった…
2
「ようこそ
セフィロト聖杯勇者選抜大会、
略してセフィロト大会へ!
今夜は異世界を問わず、
国境も人種も越え配信をお届けします!
今回の司会進行をします、
世界樹教会聖杯管理協会
統括本部 第一管理所属管理官
ミウターニャ・セイメイと申します。
どうぞ、よろしくお願いします!
続きましてこちらは同じく司会の
私の双子の妹…」
天使のような羽をもって
頭に光る輪がある
軍服のような衣装を着ている
双子の女の子が画面に映った。
みつあみの女の子のセイメイが
元気よく開会宣言をした。
その声を遮って元気よく挨拶したのは、
同じ似たような顔をした
ツインテールの女の子だった。
「みーんなぁ!!!元気ぃ~!!!
ひかまほ、盛り上がってますかぁー?
世界樹教会聖杯管理教会
広報配信部 第一配信担当
みんなの癒し系世界樹アイドル、
ミウターニャ・ノジュだよぉー!!
今日はたくさんの方が
見てくださってうれしいですぅ!!
精一杯頑張るからぁー
最後まで応援してねええ!!」
セイメイが1つ咳払いをして
真剣な顔つきで話し出した。
「まずはいきなりこの配信を
ご覧の方は何のことやら分からないと
思うのでご説明します。
我々の住む世界は世界樹と呼ばれる
「全知全能の神」がおられます。
「世界樹セフィロト聖杯協会」は
世界樹の神の宝、
「魔法の聖杯」を守ってきました。
その魔法の聖杯が神殿から
何者かによって盗まれました。
盗まれた同時刻、各地で魔物がはびこり
いくつもの国が滅び平和が崩れました。
魔法の聖杯が盗まれ、
魔物がはびこるのは古からの伝説で
王の交代の前触れであります。
すなわち魔法の聖杯に選ばれた勇者が
魔法の聖杯の封印を解いて
次期王となるのです。
私達は各地に通達を出しました。
魔法の聖杯を見つけ、
魔法の聖杯の封印を解いた者を
次期王とし、名誉、金など
ありとあらゆるものを
そのものに授けると。
すると集まった希望人数が
なんと18億8936名あまり。
その希望者に過酷なテストをしました。
その数、なんと157998回のテスト!
ほとんどの者が脱落したのが
聖なるドラゴン・メタトロンを従えて戦う
課題テスト
『光のドラゴンと魔法の聖杯の戦い』でした。
私達の世界には
『聖なるドラゴン、
メタトロンが勇者を選ぶ』という
古い言い伝えがあります。
メタトロンは野生のドラゴンで
人に懐くことは稀です。
しかし、勇者には懐くということから
今回は最終課題としてテストを実施しました。
1人も勇者になれないかもしれないという
私達の予想を超え狂暴メタトロンを
子犬のように懐かせたのが
これからご紹介する勇者候補10人です。」
「えええーっ!!うそでしょお?
あーんな野生のドラゴン、
懐くなんてそれ人類なの?
魔界の何かじゃないでしょうね?
大丈夫?
うーん、前代未聞!!」
「その通り!前代未聞だ。
だから今回この配信が企画されたんだ。
この後、
光のドラゴンと魔法の聖杯の戦いを制し、
聖なるドラゴンメタトロンに選ばれた
勇者候補10人の戦いの様子と
音声メッセージを公開します。
すでにこの勇者候補たちには
「魔法の聖杯」を見つけ出し、
奪還するという命令を受け
現在も討伐中です。
魔物は魔法の聖杯に寄ってくるから、
魔物が多ければ多いほど
魔法の聖杯を見つけやすいのです。
しかし、魔法の聖杯を見つけても
封印を解けなければ
真の勇者にはなれません。
また今回はこの配信を通じて
この勇者に来て欲しいという勇者を
現地に派遣して魔物討伐を致します。
また一般投票も加点になります。
指名はご希望2名まで!
来て欲しい勇者を選んでください!」
「それから、
世界樹教会聖杯管理協会
神官部の巫女 ベート様…
…私たちの世界の預言者様です。
そのベート様より、この配信を
えーと…チ・キュウ?
これ、読み方あってるかな。
チ・キュウという世界にも
事情により配信しています。
ぜひチ・キュウの皆様にも
最後までご覧頂きたい…とのことです。」
「では、光のドラゴンと
魔法の聖杯の戦いを制した
勇者候補10人の戦いの様子と
音声メッセージを公開します。
この映像は魔物の魔力が強すぎるため
魔物の魔力が及ばないように、
ご覧の皆様の安全を考え、
音声のみ配信します。
また勇者たちはいずれも現在討伐中の為、
今日は勇者候補たちの決意と討伐の様子を
私セイメイとノジュがまとめてご紹介します。
魔法の聖杯を見つけ
封印を解いた者が勝者であり、
真の勇者となり、次期王となる。
これが最終テストになるでしょう。
勇者は誰か?
あなたの選ぶ勇者は誰か?
魔法の聖杯の封印を解き、
世界樹の称号に
ふさわしい王になるのは誰か?
それでは、
世界樹セフィロト聖杯勇者選抜大会、
開幕です!
世界樹のご加護がありますように!!!」
3
画面が切り替わった。
黒い画面に中央に
樹木と月と星屑のモチーフ。
それはこの世界の神、
世界樹を表すものらしい。
そしてまたセイメイとノジュが現れた。
勇者候補10人の紹介を
ミウターニャ・セイメイとノジュが
司会進行しながら進めていく。
どうやら紹介の後に本人メッセージ、
これは魔法の聖杯にかける思いだとか
勇者になる決意とからしい。
そして最終課題である
「光のドラゴンと魔法の聖杯の戦い」の音声。
音声を聞いているだけでも魔物が
そこら中にうようよしている中、
勇者候補たちが己の魔法で魔物を
消滅させるのが分かる。
雄たけびを上げるドラゴンは
ノジュが狂暴というだけあって
ゲームに出てくる獰猛なラスボスみたいだ。
あんなのを手懐けるなんて人じゃない。
何かドラマや映画の映像なのかと
一瞬疑ったが、
どうやらこれは違うらしい。
スマホに異世界が映っている。
そして10人の勇者候補が紹介される。
覚醒し、勇者になる為、
世界樹になる決意をした
エール。
最愛の妻と娘を亡くし、
属性を破滅と悪に転換した
ミラックス。
光のドラゴンを幼少から育てる
ドラゴンブリーダー
サラサ。
ドラゴンを神の使いとする宗派で
ドラゴンと共に旅をする
レリウス。
あらゆる世界線の魔法少女を救った
最強の魔法少女
グリーンベリル。
王国に仕えるドラゴン騎士団の団長、
曾祖父が王
レイチェル・リー。
最強騎士団と呼ばれるアストラ騎士団に
最年少で就任した
シュレン。
魔法詠唱者の中でも最高峰の
マジックキャスター
チヌーク。
魔物を家族に殺された、
動物たちを心から愛し、
家族のように思っている
シトライン。
魔物にすべてを奪われた元貴族の生き残りで
立ち上がる決意をした
アクア・ミュントス。
10人は見事に魔物を倒していた。
あんな狂暴なドラゴンを
簡単に手懐けるくらいだ。
そのドラゴンと一緒に戦うなんて。
人間じゃない。
これは少なくとも地球じゃない。
これは…これは異世界なんだ。
そう思った。
セイメイとノジュが映る。
勇者候補紹介は終了するみたいだ。
「…以上が勇者候補10名の紹介でした。
いかがでしたか?
どの方が魔法の聖杯を見つけ、
封印を解き、時期王になられるのか
引き続き私たちも詳細が分かり次第
お伝えしていきます。
ん?ここで情報が入りました。
私たちの世界の未来予知に関して
緊急にお知らせしたいことが
あるそうです。」
会場がざわついているのが分かる。
何かアクシデントなのだろうか?
音量を上げた。
ノジュが慌てている。
「え?こんな段取り、聞いてなーーーい!
あ、中継が繋がってる?おっけーです!
では、どうぞ!!」
画面には「?」の文字。
?ってどういうことだ?
音量を再び上げて
よく聞き取れるようにした。
老婆の声が聞こえてきた。
「ごほごほっ。
皆さん初めまして。
お集まりいただき、ありがとうございます。
まずは世界樹のご加護がありますように。
私は世界樹教会聖杯管理教会
神官部の巫女 ベートと申します。
私たち神官部はさまざまな予言や
占いを検証し、ありとあらゆる災難や
これからの未来予知に関して
王室にアドバイスしてきました。
我々の未来予知精度は99.98%。
先ほど勇者に関して確実な予言が出たので
お知らせします。
今回、魔法の聖杯がなくなり、
勇者候補が異例の10人…
この前代未聞の事態を古代の預言書に
照らし合わせ詳しく調べたところ、
古代の預言書 ククノチの木の書の
『新世界樹創世記』の到来に
あたることが分かりました。
『邪なる物が聖なる大地を脅かして
地上より緑や木々が消え、暗黒の世は続く。
その後、時を超えし旅人が現れ
勇者たちと手を合はせ
魔法の聖杯の封印を解ゐし時、
光の世界樹に導かれ平和の世が
訪れるならむ。
これすなわち
【超時空世界樹時代】の到来なり。』
古代書によると
10のセフィラ、22のパスとは
10人の勇者と11人の両手
すなわち22の手で
魔法の聖杯の封印を解く
ということとある。
つまり先ほどの勇者候補10人は
全員勇者であることが確定したのじゃ。
今すぐに勇者の援護を行い、
勇者10人が聖杯が見つかるまで
全員生き残ること。
そしてもう一つ。もう一人勇者候補、
すなわち11人目の勇者の話じゃ。
もう一人の勇者は予知夢によると
異世界のチキュウという星におる。
性別は不明。
世界樹の導きによってすでに今
この配信をご覧になっておられる。
チキュウで配信をしたのは
チキュウの勇者候補を探すため。
後はセイメイ、頼んだぞ。
わしからは以上じゃ。」
神官部巫女 ベートは
ずっと今回の件を調べていた。
そして光のドラゴンと魔法の聖杯で
勇者候補が10人になったことで確信する。
これはそう【新世界樹創世記】の法、
その時が来たのだと。
10名の勇者と必要なのは異世界の旅人。
つまり異世界の勇者だ。
異世界はチキュウ、ニホン。
すぐに緊急配信の手配を
女王様へお願いしなければ。
そして水面下で準備は進んでいたのだ。
勇者候補10人と
チキュウからの勇者がそろったとき、
聖杯の封印は解かれ
【新世界樹創世記】が始まるのだ。
10のセフィラ、22のパス。
つまりこれは10人の勇者と勇者と
異世界の旅人両手を足した22の両手を
意味する。
今戦いの最前線で戦う10人の勇者候補を
すぐにでも助けて欲しいと。
4
神官部巫女 ベートからの配信が終わった。
画面の向こうでは
司会のセイメイとノジュが大騒ぎしている。
最初に言葉を発したのはセイメイだった。
「えーーーー!?
予想外過ぎてびっくりしていますが。
えーと…
あ、他にも情報が来たぞ。
今回の配信をチキュウで流したのは
まだ勇者と気付かぬチキュウの者に
勇者と気付かせるため
もしかしたらこの配信を見て
勇者だと気づくかもしれないと思った…
なるほど。」
ノジュはまだ混乱しているらしい。
「ええええーーーーーっ!!
新世界樹創世記!?
あの有名な予言って
本当に起こっちゃうの?
チキュウに配信って
そういうことだったの?
異世界の勇者なんて聞いたことないっ!」
一瞬の沈黙の後、セイメイが言った。
「…びっくりしたな。
でも巫女様の予言は恐ろしく当たる。
チキュウに勇者候補がおられるのだろう。
しかしどうやって異世界の勇者候補を
探すのだろうか…?
え!?えーーーーっ!?
…これは私にできるんだろうか…?」
「えーーーーーー!?
セイメイの透視能力で
テレパシーを飛ばすの?」
「離れているところのものが見えるなら
想いを飛ばすこともできるはず…か。
私の声が聞こえた者が勇者候補か。
なるほど。
とにかくやってみよう!」
「セイメイならできる!!
頑張って!!!」
想いを飛ばす?訳が分からないまま、
念じるように目を閉じた。
イヤホンからは音楽が消えた。
耳からの音だけに意識を集中した。
「ではこれからチキュウの勇者候補へ
思いを送ります。
勇者候補ならば
この声が聞こえるはずです。
よし!」
画面の中のセイメイは
頭上からピンクと青の電波を出して
想念を送り始めた。
目を閉じて耳に集中すると
とんでもないことが起こった。
『私の声が聞こえているか?
私はキミの脳内に直接話しかけている。
私の声が聞こえるということは
キミは勇者候補の課題テストを
クリアしている。
私はキミを待っている。
キミは勇者だ。
もう一度言う。
キミは勇者だ。
キミを待っている。』
「ふぅー。届いているといいのだが。」
「大丈夫!!きっと届いているよ!!」
え!?な…なんだ今のは!?
手の震えが止まらない。
まるで自分の脳に直接語り掛けるように
画面の中のセイメイの声が
はっきり聞こえてきた。
勇者候補しか聞こえないという
セイメイの想い。
聞こえて少し震えている。
それは怖さでもなく、緊張でもなく、
自分が選ばれたということに対する
ワクワクと興奮だった。
5
まだ配信は続く。
「もしこの配信を見て、
あなたが少しでもこの世界に興味を
持ってくれたのなら。
あなたに少しの勇気があるのなら。
この異世界の扉を開いて
ぜひ魔法の聖杯を見つけて欲しい。
そして
この世界の王になるかもしれない。」
自分が異世界の扉を開いて、
魔法の聖杯を手に入れる!?
でも、どうしたらいいのか
何も分からない。
「チキュウの皆さん、
私は待ってるよー。
あなたが目覚めることを!」
目覚めるってどうやって!?
「さあ、時間だな!
これで勇者紹介は終了です。
最後に女王様から
最後のメッセージをお届けします。
本日はありがとうございました。
またお目にかかれる日を
楽しみにしています。」
待って!!
どうしたらそっちに行けるかも方法も
分からないんだ。まだ終わらないで!
「今日はみんな本当にありがとう!!
またどこかでお会いしましょうね!!
絶対だよ♡」
「お別れのあいさつに代えてお祈りを。
世界樹のご加護がありますように!」
セイメイとノジュが消えた。
配信のラストを迎え観客の声と
拍手が鳴りやまない中、
女王の声が響き渡る。
大歓声の中
女王の明るく力強い声が聞こえる。
女王は告げる。
「女王のアンテイアです。
最後に私からみなさんに
お伝えしたいことがあります。
勇者10名と異世界の勇者候補。
勇者10名が生き残り、11人そろって
魔法の聖杯に触れたとき、
魔法の聖杯の封印が解かれると
ベートからも報告がありました。
かつて私も勇者となり、
魔法の聖杯に導かれた者として
言えることは
この世に勇者は必ず現れるということ。
『勇者よ、目覚めよ。』
世界樹のご加護を受けて
魔法の聖杯の封印を解く
勇者は必ず現れるでしょう。
私は待っています。
勇者となる者に出会うことを。
あなたの使命に気づいて
あなたが目覚めることを。
勇者によって平和の世が始まることを。
すべての者に
世界樹の神のご加護があらんことを!!」
そして配信は終了した。
6
しばらく呆然と真っ暗なスマホの画面を
見ていた。
勇者よ、目覚めよ…か。
あの時、耳元でささやかれたあの言葉。
確かに聞こえた。
私の声が聞こえた者が勇者…。
もしかして、勇者って自分!?
セイメイの言葉が耳から離れない。
自分が勇者…でも…。
それでも自分が勇者であることを
信じたいと思った。
でもいったいどうすれば?
いや、騙されてんのかな…。
現実に勇者なんて…
そんなわけないか…。
ようやくため息をついて
カフェの天井を見上げた。
いつもの行きなれたカフェ。
すると通知音が鳴り、
見知らぬところからの
メッセージを通知した。
その通知を見て驚いて机にぶつかった。
件名は
『世界樹協会聖杯管理協会』
まさか…!?
メールにはリンクだけ。
リンクを恐る恐るタップする。
パスワード画面。
えーと確か、SEKAIJYU?だっけ?
思い出しながら
一文字一文字丁寧に入力すると
文字は黒い丸に変っていく。
するとポンという音と
WELCOMEの文字。
さっきスマホの配信画面で
流れてたものと同じだ。
そして文字と共に手紙が現れた。
『☆まだ見ぬ勇者たちへ
誰もが主人公になれる世界を
誰もが持っている。
自由という名の聖なる心を。
どんな邪悪な敵でさえも
私たちは決して屈しない。
この世界を守るために。
生きて生きて生き抜くのだ。
あなたに眠る力は信じることで
強い光を放つだろう。
生まれ変わるほどの強い変化。
あなたには生きる力があって
誰かを強く思う信じる力があって
誰かを癒すための優しさがあって
誰かを守るための勇気もある
たった一人の素晴らしい命なのだと。
あなたがここまで生きてきたことは
困難や苦難がたくさんあって
その度にたくさんの涙も
流しただろう。
それが全てこれからの未来の
幸せのためにあるのだとしたら。
あなたはもっと幸せになるだろう。
私はその幸せをささやかに
遠くから願おう。
この世界の世界樹と共に。
あなたに世界樹の神の
ご加護がありますように。
あなたにこのリンクを託します。
決断ができたら下記リンクにどうぞ。
勇者よ、目覚めよ。
世界樹協会聖杯管理協会』
そしてまたリンクが貼られていた。
ワクワクする。鼓動が早い。
飲みかけのコーヒーを
一気に飲み干して片づけた。
一番相談できる奴…
LINEで探して連絡する。
「さっきの配信見た?
これから会えないかな?
ちょっと話したいんだけど…。」
世界樹の世界で勇者は戦う。
1人でも死んでしまえば
あの世界は終わる。
チキュウからの勇者を
世界樹は待っている。
魔法の聖杯は起こるべくして起こった。
来る【新世界樹創世記】への序章。
これは終わりの始まり。
時は来た。
誰も知らない。
王は誰だ。
勇者は誰だ。
魔法の聖杯のみぞ知る。
END
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