仄暗い水の底で

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仄暗い水の底で

 いつからいるんだろう。  冷たい。  ここはきっと水の中ね。  あぁ、そう、あの日、あなたと一緒に来た春の湖。  私の身体は夏でも冷たい水のおかげで腐らずに死蝋化したんだわ。  今は意識だけが身体を離れられずに留まっているの。  あなたとは高校で出会った。  あなたは私たちのクラスの担任になった。  新卒だったあなたは、ハンサムで、背も高くて人気の的だった。  私は、こっそりとあなたとお付き合いしている事を誰にも言わなかった。  そして、高校を卒業したら、結婚しようって言ってくれていたのに。  卒業旅行だねって言って、北海道旅行をした。  美味しいものを食べて、綺麗な景色を見て、そして、この湖にたどり着いた。  あなたはふいに私の足元に跪いた(ひざまづいた)のよ。  私ったら、あなたがプロポーズしてくれると思ったわ。  暢気だったわね。  あなたはそのまま私の足首を急いで紐で結ぶと、そのまま今度は手首も胸の前で結んだ。  私は驚いて、声も出なかったわ。  元々華奢な私をあなたは軽々と抱き上げて、そのまま湖の見える高台から私を湖に投げ落としたわね。  苦しかった。冷たかった。  そうして、きっと1年がたったのかしら。  湖に張っていた氷が融けて、あなたと一緒に見た春の薄青い空が見えるもの。  この仄暗い湖の中から。  あぁ、会いたかった。  そうして、あなたはまた、今年別の女子高生を連れて来たわね。  見覚えがあるわ。私の部活動の後輩だもの。見間違えないわ。  あぁ、また足首を結ぼうとしている。  だめ!後輩まで私と同じ目に合わせないで!  さぁ、行くわよ・・・  ザッバ~~~ン  私は力を振り絞って、あなたの目の前に飛び出したわ。  死蝋化しているから、何となく私の面影があったでしょう?  水から出た私はすぐに崩れ始めたけど、大丈夫。  あなたにしっかりと絡みついたから。  あなたは叫び声もあげられなかったわね。  よほど驚いたのね。  さぁ、今度は私があなたを放さないわ。  一緒に、仄暗い水の底で過ごしましょう。  これ以上、犠牲者が出ないように。  そして、最初に一緒になろうと誓った私との約束を守るために。 【了】  
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