魔法使いになったら

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 🧹🧹🧹 「僕はきっと魔法使いになるから」 「魔法使い?」 「そしたら、ゆきちゃんを僕のお嫁さんにしてあげるね」 「うれしい。約束よ」 その言葉に、時ちゃんはへへっと照れ笑いした。 ちょうど、海外の作家が書いた魔法使いの主人公が活躍するという本が世界的にベストセラーになった頃だった。 幼かったわたしたちは、麦わら帽子をかぶり庭ほうきを跨ぎ、風呂敷をマントに追い掛けあった。 そんな時ちゃんが、崖から落ちて亡くなったとみんなが知らされたのは数週間後のことだった。時ちゃんのそばにはあの時遊んだ庭ほうきや風呂敷が散らばり、彼は落ちたのではなく飛び降りたんだと先生は警察から報告されたそうだが、子供たちのことを考えてのことだろう、時雄君は事故で亡くなりましたと告げたんだそうだ。 その時、病院のベッドで高熱にうなされていたわたしがそのことを知らされたのは何か月もあとのことで、学校内の全校生徒が彼の霊柩車をお見送りしたことも、親しかった子供たちが親と一緒に彼の葬儀に訪れていたことも知らなかった。そして、わたし自身目覚めた時に彼と仲良く遊んでいたことすら記憶が朧げで、医者は高熱の後遺症で以前の記憶があいまいになっているのかもしれないけれど、時間が経てば徐々にそれも戻ってくるでしょうからあまり気にしないようにと両親に告げた。 そして、そんな状態のまま学年が代わり、時ちゃんのことを口にする者はいなくなった。 どちらであろうと時ちゃんがもうこの世にいないということは事実で、仲良くしていた者たちの心の悲しみは変わらなかっただろうけれど。 そして、幼かったわたしの記憶はオブラードで包まれたまま心の中に仕舞い込まれた。
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