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「綺麗な花火…」
まおは僕の隣で呟いた。
花火大会の日、川沿いの橋を中心に人が溢れかえる。しかし、僕たちの周りには誰もいない。
山へ向かう道中にある、公園にも満たない程の広場。そこからは、綺麗な街並みも、花火も綺麗に見える。偶然見つけた穴場スポットだ。
「でも、どうして?」
問いかけるまおの、顔の半分が花火に染まる。
いつもなら、まおが誘う側だ。昨年の花火もそう、普段も何かに誘うのはまおの方から。でも、今回は僕から誘った。それが意外だったのだろう。
僕も、いつもなら誘ってくれるまおから何も言われないな、と思っていた。
遠慮してるのかな、あるいは、僕がいつも気を使って断れない、と思ったからではないだろうか。もしかして、嫌われてしまったのだろうか、とか嫌な想像が頭をよぎったりもした。
「嬉しかったよ。いつも私からばかりだから、ほんとは嫌なのかな、とか思ったからさ」
そう言って、まおはニコッと笑う。その笑顔を見て、僕もほっとして、笑い返す。
「また来たいね」
花火を見たまま、まおは笑った。
今日の花火は、今まで見てきた中で一番きれいな気がした。
「だ―」
花火に邪魔されたその言葉を、まおは、なんでもない、とはぐらかした。
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