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「──おまえさんも感傷に浸ってないで、なにか探せ」  滝本の声で我に返る。慌てて振り返ると、滝本は箕島に背を向けたままクローゼットの中を漁っていた。  どこを探せば……箕島は机の引き出しを開けてみた。そこには仕切られたトレーの上にきちんと仕分けられた文房具が入っているだけだった。 「うーん。おい、さっきの話はどう思う?」 「さっき?」 「桝野の彼女の話だ。結婚秒読みだった男が、突然フラれてヤケになってやったって筋書きも考えられるだろ」  それは……どうなんだろうか。「いや。そんなことでやりますかね。仕事も失ってっていうならわかりますけど、仕事は順調だったわけですし」 「オンナに溺れてたってのもあるぞ」 「まあ、なくはないでしょうけど。だったらそのオンナに包丁向けるほうが早くないですか?」 「おまえさん、意外と物騒なこと言うんだな」滝本は目を丸くした。「だがそれは俺もそう思う」滝本はクローゼットの扉を閉めながら言った。「結婚するとかしねえとか以前にこの部屋にはオンナの痕跡が全くねえ」  滝本は自分に言い聞かせるように呟くとキッチンへ向かった。  滝本がキッチンを調べている間、箕島は机の上の書類の山を一枚ずつ確認していた。なにか手掛かりになるような走り書きでもあればと丹念に探す。そこからオンナの情報に繋がるような何かが見つかるかもしれない。だが授業に関係するもの以外は全く見当たらなかった。  箕島がひと通り調べ尽くして顔を上げると、滝本はすでに風呂とトイレを調べていた。 「なんもねえわ」滝本は何か考え込むように戻ってきた。「それにアレがない」 「アレ?」 「パソコンだ。俺くらいの歳でも持ってるのに、この部屋にはそれが見当たらねえ。おまえさんくらいの年齢なら持ってて当たり前だろ?」  確かにこの部屋にはテレビもラジオもない。スマホで代用していたとも考えられるが、パソコンの一つもないのは仕事のことを考慮しても不自然だ。誰かが持っていった? なんのために?
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