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「なあ、この部屋を見てどう思う?」滝本が突然箕島に尋ねた。箕島はゆっくりと部屋を見回す。男の一人暮らしにしてはかなり綺麗だ。桝野は部屋を学生時代から綺麗にしていた。だが── 「そもそも昔から部屋は綺麗にしていました。けどなんというか掃除した後って感じがします」  箕島の答えに満足したように滝本は頷いた。 「俺もそう思った。机の上に積まれた書類とか台所の水切りラックに置かれたコップだけ見れば、犯行は衝動的に行ったと思うかもしれない。だが奴はそれも計算ずくで片付けていったんじゃねえかなって。冷蔵庫には生ものは一切入ってない。生ごみもない。自炊しない男がいくつも使い込んだ鍋を持ってるか? 箸は通常使われてるものはひと組。あとは菜箸を使ってる。客用の箸は別にしている。洗面所には歯ブラシが一つ。シャンプーは男性用。トラベルセットやホテルのアメニティの類は皆無。風呂に使いかけのバスタオルはなし。俺にはこの部屋の後片付けをする奴に気を使ってるとしか思えねえ」 「となると──パソコンは自分で片付けていった?」 「たぶんな。データを消去して売っぱらったか捨てたか」 「じゃあパソコンには何か重要な手掛かりが残ってた?」 「恐らく履歴を調べられないようにだろう。計画的だったとなると、話が一気に変わってくるだろ?」 「たとえば」箕島は思いついたことを口にした。「依田に恨みのあるどこかで借金をしていて、その返済のために頼まれたとか」 「ねえな」滝本はそれをあっさり否定した。「暴力団の組の幹部だぞ? シロウトにやらせるとは思えん」 「でも一人で歩いてたんですよね?」 「それを知ってたら余計にプロに頼むわ。そのほうが確実だ」  さすが二課の暴力犯係だと箕島は思った。確かにそれだと失敗したほうがややこしい事態になるだろう。 「まあ、仕方ねえ。ここはとりあえず引き上げるか。いい時間だし、飯でも食いに行くか」  駅前の居酒屋に聞き込みに行くということだろう。
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