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 箕島と滝本はコンビニを出て、桝野のマンションに向かった。このあたりのことなら管理人ならもしかしたら知ってるかもしれない。  マンションの前には運よく管理人がゴミをまとめて道路に出して、立ち話しているところだった。相手は女性二人。小柄なふくふくとした中年女性と背の高い三十代くらいの女性だった。  背の高い女性は──どこかで見た顔だった。そう、二人が追っていた女性だ。箕島と滝本は顔を見合わせて目配せをした。あくまで平静を装うことを確認し合う。 「こんにちは」滝本がそう声をかけると管理人が「いま言ってた警察の人」と女性二人に説明した。 「桝野さんが失踪してるって本当ですか?」中年女性が驚いたように尋ねた。 「あ、いや。失踪してるってわけじゃないんですけど」予想外なことを言われて滝本は面食らった。 「でも帰って来てないでしょう? 郵便受けに新聞が溜まってるから」箕島はふと一階に設置されている郵便受けに目を向けた。確かに新聞が無造作に刺さったままの郵便受けがあった。 「ここのところ思い詰めたような顔してたもの。早く見つけてあげてくださいね! なんかあってからじゃ遅いから」 「はあ」箕島は仕方なくそう返した。よく見てる人だ。詳しく話を聞きたい。それについては滝本も同じことを思ったようだった。 「あとで順番に詳しい話を聞きに伺います。その際はご協力お願いします」 「だったら夕方過ぎのほうがいいわよ。今はほとんど働きに出て不在だから」  中年女性のアドバイスに滝本は「なるほど!」とわざと初めて気がついたかのようなリアクションをした。出直して来ますと滝本は踵を返した。だがすぐに振り返った。 「ああ、そういえば何号室の方でしょうか? お名前を伺っても?」  中年女性は407号室の河野と答え、背の高い若めの女性は501号室の飯田と答えた。  二人はそのまま車に戻って発進させると、脇道に入ってすぐに車を停めた。 「──あの女ですよね?」 「そうだったな。しかも上の階だ。何か事情を知ってるかもしれない」  箕島は顎に手をあてて考え始めた。一緒に飲みに行くほど親しい間柄なのに、中年女性ほど心配した顔をしてなかった。それも気になる。それに──違和感があった。 「どうした?」滝本は箕島を横目で眺めた。 「いやあの飯田って女、なんだか気になって……ああ、もしかして刺青(スミ)を消した痕か」 「刺青?」 「ええ、今までは割とタートルネックを着てたり、髪の毛をおろしてたりしてたから気がつきませんでしたけど」  今日は髪も結っていたし、首元の開いたボートネックのシャツを着ていたので気がついたのだ。 「あの女、首元にわりと大きめの刺青を入れてたんじゃないすかね。首元の皮膚が引き攣れてた。ああいうのは刺青を消した時に起きることが多いので」  箕島の何気ないひと言に滝本は大きく目を見開いた。 「……他に気になったことはあったか?」 「左手の小指が潰れてましたね。珍しい箇所が潰れてるもんだなって」  それを聞いた滝本は慌てて電話をかけ始めた。慌てすぎて電話を落としそうになっていた。箕島はその姿を見て何事かと思った。  滝本は応援を要請していた。「いま送った写真の女を絶対に見失うな」どうやら張り込みの要請をしたらしい。
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