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 署に戻った滝本は真っ直ぐ生活安全課に向かった。 「山辺さんはいるか?」部屋に入るとすぐに滝本は言った。 「おー、滝本さん。こっちこっち」奥の段ボールが積まれた脇から山辺が顔を出した。山辺は滝本よりも年齢は上に見えた。 「電話で話したろ。小指が潰れた女の件」 「ああ、河村悠香な。だから資料を引っ張り出してきておいたわ」そう言ってファイルを差し出した。滝本は急いでファイルを捲った。そして間違いねえ、と呟いた。 「この刺青と小指」滝本が箕島に見せたのは、首の後ろに彫られたアゲハ蝶の刺青と生々しく潰れた小指の写真だった。 「あの女、過去に何かしでかしてたんですか?」滝本と山辺は顔を見合わせた。 「しでかすというか、しでかすところだったんだ。女の狂言で危うく俺たちは誤認逮捕するところだった」  一緒に暮らしている男から暴力を受けていると悠香が署に相談にやって来た。逆らうと暴力を振るわれて殺すと脅されると訴えて震えていたという。 「刺青を強要されて、指を潰されたとか言ってさめざめと泣き出してよ。俺らもすっかり騙されたよ」そう言って山辺が頭を掻いた。  顔や体には青痣があり、しかも相手は暴力団に所属しているということで滝本も調べに加わることになった。 「相手をしょっぴいて取調べた。オンナに暴力を振るったことは認めた。だが青痣になるくらいは殴ってはいないし、小指も潰した覚えもない。刺青は自分で進んで彫ったって言ってな。しかも暴力団とは関係ないただのチンピラで」  そこまで言うと滝本は言葉を切った。そして考え込むように顎に手をあてた。 「そういえばあの時、確か新しい男ができて今の男が邪魔になってやったんだよな。新しい男って」 「どこかの組の構成員じゃなかったでしたっけ?」山辺が答えた。 「そうだ──すっかり忘れてたな」  滝本は自分の部署に戻ると、自分の部下に声をかけて指示し始めた。箕島は生活安全課から借りてきたファイルに目を通す。DVを受けていたのは女の狂言で、その男が警察に連行されてる間に男のカネを持って行方をくらませた。そもそも計画的な犯行だったのだ。警察を巻き込むために自分の指まで潰すとはイカれた女だと箕島は思った。だがどうしてこの女が桝野に目をつけたのか。桝野は生活には困ってはなさそうだったが、決して裕福なほうではない。  ターゲットは桝野じゃなかった──だとしたら刺されたほうか。確か組の若頭だった。だとしたらカネは持ってるだろう。その男のカネが目当てなのか?  箕島が考え込んでいると、滝本に「出かけるぞ」と肩を叩かれた。
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