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「──あの、さっきのって情報屋かなんかですか?」車に乗り込むとすぐに箕島が堪えきれずに尋ねた。 「まあな。喫茶店のマスター兼情報屋ってとこだ。だが俺の情報屋ってわけじゃあない」  どういうことだろう。滝本だけの情報屋じゃないってことなのか? 「あいつは元警察官だったが、暴力犯係にいて奴らと近くなり過ぎた。それが噂になると奴は警察を辞めた。今じゃ立派な情報屋だよ。カネのいいほうにあっさり転ぶからな」  それはつまり警察の情報を暴力団にも流すということか。 「だったら今のだって」 「まあ、高く売りつけるだろうなあ。勘のいい奴だから俺が言おうとしたことには気がついただろうな。警察も惜しい奴をなくした」滝本は悪びれることもなく言った。 「だったらヤバくないですか?」 「おまえさんは今回の件はどう見立ててる?」箕島の問いには答えずに滝本は聞いてきた。 「俺はこう考えてる」滝本はふいに口を開いた。「女は半グレの男に乗り換えたかった。恐らく依田には新しい情婦がいたんだろう。捨てられる前に女は依田からカネかヤクかを奪いたかった。できれば命も。それを桝野にやらせた」 「桝野がそんなことを手伝いますかね?」 「俺らと同じように騙されたんじゃねえかなと思ってる。あの女は騙しのプロだよ。俺だってすっかり騙されたんだからな」 「証拠がありません」 「だな。桝野は手際がよすぎた。すぐに分かる証拠はなんも残しちゃいねえ。だからここまで来たんだ。奴がこの話を依田に持っていくように。少なくとも依田の下のもんは警戒する。安易にカネもヤクも持ち出せなくなるはずだ。女の動きを止める。それで少しは時間稼ぎになるだろ?」  それは箕島の最初の問いに対する答えだった。それでわざわざ餌を撒きに来たのか。箕島は滝本をじっと見つめた。 「だとしたら少なくとも桝野と飯田の確実な接点が必要ですね」 「そうだな。そろそろ時間だ。何か見つかるといいが」  二人は桝野のマンションに向かった。  まずは407号室の河野の家に向かう。恐らくあのお喋りの女性は話したくてうずうずしてるはずだ。インターフォンを鳴らすとすぐに玄関の扉が開いた。本当に待っていたようだった。 「桝野さんって親切な人だったでしょう?」すぐに話しを始めた。 「五階のお婆さんが転んだ時もちょうどその場にいたからって病院まで付き添ってあげちゃうし。私なんかも重い荷物を持って帰って来た時に下でばったり会って、ここまで持って来て貰っちゃったもの。そういえば飯田さんも粗大ゴミを捨てる時に手伝って貰ってたわねえ。それからかしらね、よく二人が話してたのは。ほらなんかいい感じだと目に入っちゃうっていうか」鈴木はそう言って笑って誤魔化した。それなりの住人は見ていたかもしれない。 「それに402同室と403号室が揉めた時の間に入ってあげてたから」 「なにか揉め事でも?」 「402の男の人が夜型でね。403は五十代のサラリーマンだったんだけど、すごく神経質な人で、夜に動かれるのが我慢ならないって。何度も怒鳴り込んで行ってたわよ。結局は引っ越して行ったけど」 「その時に桝野さんが間に入ったと?」 「ええ。揉み合いになりそうなところを止めてたのを何回か見たから」  河野はひとしきり喋り終えると「早く見つかるといいですね」と言った。滝本と箕島はそこで話を打ち切った。礼を述べてその場を後にした。
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