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 次に向かったのは402号室だ。何度かインターフォンを鳴らすと、機嫌の悪そうな声が聞こえて扉が開いた。色の抜けた長い髪の目つきのよくない痩せた若い男だった。二人は警察手帳を掲げた。桝野のことを聞きたいと告げると、態度が急変した。 「桝野さん、どうかしたんすか!」 「まあ、ちょっと」 「いや、まさかあの男に刺されたとか言いませんよね?」 「あの男とは?」滝本がそう尋ねると、予想した通りかつて隣と揉めていた話を始めた。 「そういうことで逆恨みされるようなことは多かったんでしょうか?」箕島が口を開く。 「いや、今まではないけど。でもいつかはそうこともあるかなあって。変な人って多いでしょ?」 「まあ」箕島はそう答えるしかなかった。 「それに最近じゃなんか女の人の揉め事に巻き込まれてるっぽかったから」 「女の人?」 「桝野さんには世話になったから、お礼も兼ねて近所の同級生がやってる居酒屋に連れて行って紹介したんすよ。ソイツとは仲良いんで桝野さんが来たらサービスしてくれって頼んだんです。で、桝野さんもその店を贔屓にしてくれて。最近ソイツから桝野さん大丈夫かなあって連絡が来てたんす。なんか一緒に来る女の人がいて深刻そうに話してたって。たまにその女の人が泣き出したりして桝野さんが慰めてたってのを聞いて、変なことに巻き込まれてなきゃいいなって」  箕島と滝本は顔を見合わせた。そして慌てて店の場所を聞いた。  その店は駅とは反対側に歩いて十五分ほどの住宅地にひっそりと佇んでいた。しかも路面店ではなく、路地に入ったところだった。教えてもらわなければ、見つけることはできなかったに違いない。いい感じに日焼けした店主は滝本の見せた写真にすぐに反応した。それは一番地味な格好をした飯田の姿だった。 「ええ、この人で間違いないです。最近ではなんだか深刻そうに話してました。もしかしたらこの(ひと)、DVかなんか受けてたんじゃないですか?」 「どうしてそう思われたんですか?」 「いや、料理を持って行った時に腕を捲って見せてるのをたまたま見かけて。なんだかひどく焼けただれてましたよ。酷い野郎もいるもんだって私だって腹が立ったくらいでしたから」  滝本はもうじゅうぶんだから上に報告しろと箕島に告げた。 「あの女は別件で引っ張る。それで必ず吐かせる」滝本は力強く言った。確かに桝野がこの段階で飯田の話をするとは思えない。突破口はオンナの側にしかない。箕島は滝本を信じて任せることにした。 「お前さんは桝野の過去を洗ってみたらどうだ? あの女につけ入る隙があるって思わせたのには何か事情があるかもしれん」  彼女に好意を持っていた、と箕島は考えていたのだがそうではないのだろうか。滝本には何が見えているのか。箕島はとにかく探ってみようと頷いた。
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