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「──桝野とはどれくらい会ってない?」 「高校を卒業してからですから、かれこれ十二年になります」 「十二年も会ってなかったら人だって変わるよね」 「でも! 彼は京都の国立大に入ったんです。それなのに」 「どんなに頭がよくてもやる時はやるよね」鈴木が言ってるのは薬物のことだろう。確かに頭の良し悪しで決まるものじゃない。 「まだ桝野がヤクをやっていたとは決まってません」 「じゃあ箕島くんは供述通りってのを信用するわけかい?」 「いや」箕島はそれを聞いて頭をフル回転させる。誰でもよかったのならどうして奴なのか。相手は写真で見る限りどこからどう見ても普通のサラリーマンには見えない。むしろ分かりやすいくらいその筋に見える。誰でもいいって言うなら普通ならもっと弱いものを狙うんじゃないだろうか。あの時間帯の南太田駅ならそれこそ学生や女性だっていただろう。それなのにわざわざ強面に向かっていった? それによく考えたら南太田っていうのも解せない。誰でもいいなら自分の住んでる最寄駅に行けばいいだろう。それに藤沢なら東海道線・湘南新宿ライン・小田急江ノ島線それに江ノ電だって走っている。それなのに何故アクセスの悪い南太田なんだ? 「まあねえ。確かに違和感がないわけじゃないんだよねえ」  箕島が慌てて顔を上げると、鈴木は資料を手に取り丹念に眺めていた。 「何故、奴を刺したのか。何故南太田だったのか。そういうとこだろ?」 「そうですね。気になります。仮に奴を刺したのが怨恨だったとしても南太田ってのが気になります。桝野は奴が南太田に一人で行くのを知っていたということになります。構成員の情報を桝野が知るのは難しいのではないかと」  なるほどねえ。鈴木はそう呟くと、資料を穴が開くほど見つめた。 「共犯──あるいはその情報を流した奴がいるってことだな?」鈴木の問いに箕島が頷いた。鈴木はしばらく無言で何かを考えているようだった。箕島は黙って待った。こういう時の鈴木はもの凄く頭を使っている時だ。そして稀にとんでもない指示が出る時がある。たいがいそれは意外な結果に覆る。 「──三日。どんなに待っても三日だ。72時間のうちに何か見つけてこい。はっきり自供してるんだ、その後はすぐに方針が決まっちまうかもしれない。何かがあれば勾留期間を最大限利用すりゃ結果は変わるかもしれない」  鈴木は何かを思うところがあるようだった。 「はいッ」箕島は思わず立ち上がって頭を下げた。
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