土の下の君

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10年前。 クラスでタイムカプセルを埋めた。 HRの時間だっただろうか。 とあるカースト上位の男子が言った。 「タイムカプセル埋めて、 10年後に集まって掘り起こそうぜ~。」 沸き立つうるさい人たち。 「え~」と言いながらも満更でもなさそうな女子たち。 先生はその様子を見て笑っている。 私は気乗りがしなかった。 だって、こういうのは大抵言った本人は この後何にもしないのだから。 学級委員である私ともう一人が、 面倒ごとを任されることになる。 同意した奴らだってどうせその場のテンションで、 この中の何人が10年後ここに来るのだろうか。 最悪、言った本人ですら自分が発案者であることを忘れて 来ないのかも知れないし。 案の定先生は「じゃあ、学級委員を中心に計画を進めていくぞ~」 とか言い出した。 あー。面倒臭い。言った本人や同意した奴らがやれよ。 そうはいっても、それら全てを請け負う覚悟で この学級委員になったのだから仕方ない。 仕方なく黒板の前に立つ。 少しすると、彼が 「よっ!学級委員!」「10年後まで連絡先消すなよ~」 と、ヤジを飛ばされて困ったように笑いながらこちらへ向かってくる。 「何だか大変そうだけど、頑張ろうね。」 そう君が言うから、私はここに来て初めて少しだけ笑った。 君が学級委員を立候補したあの日。 私は君との接点が欲しくて勇気を振り絞って手を挙げた。 他に自らこんな役割をする人はなかなかいない。 結果、私は君とこうして隣に立つことが出来ている。 それだけでいい。君の彼女になりたい訳じゃない。 ただ、一つでも接点があれば、それでいいのだ。 みんなが配られた紙に悩みながらも筆を走らせたり、 紙飛行機を折ったりしている。 私は別に10年後に言い残しておきたいことなんてない。 きざなセリフを書くわけでもない。 結婚していますか?とか、そんなどうでもいいことを聞くこともない。 だけど彼はあまりにも真剣に筆を走らせていたので、 それを見て私も少しだけ思いのたけをその指に乗せた。 様子を見て全員分の手紙を回収した後、 校庭のとある木の下にみんなで埋めた。 深く。深く。誰にも掘られないように。 彼は手を泥まみれにしながらも、とても満足そうな顔をしている。 10年後。きっと、卒業したらその期間彼に会うことはないだろう。 でも、逆に言えば10年後。彼に会うことができる。 未来の約束。そう考えると、なんだ。 タイムカプセルも悪くないじゃないか。 それから10年が経った。 あの恋心はタイムカプセルを埋めた時に一緒にしまい込み、 私は今就職先で出会った人と結婚をしている。 自分自身もタイムカプセルのことなど忘れていた矢先、 当時の教師から連絡が来た。 よく覚えていたものだと感心をしながらも、 少しだけ鼓動が早くなる。 久しぶりに彼に会える。 これは決して浮気とかではない。 ただ、今の彼がどんな顔をしているのか、 どんな反応をするのか。 その緊張と、純粋な楽しみだけだ。 他の生徒と連絡を取り合うのであれば、 まずは彼と連絡が出来た方が話が早い。 先生へ彼との連絡をするのに取り持って貰えないか聞いてみた。 しかし、先生から出てきた言葉は、あまりにも衝撃的な言葉だった。 「あぁ、実はな…」 それから数日後。 私はクラスの誰にも連絡をしていない。 今は夜中の校庭で一人、必死にタイムカプセルを掘り起こしている。 深く。深く。深く。 誰かに見つかったら不法侵入で逮捕されてしまう。 その焦りから見た目何てもう気にしていられなかった。 あの時の君よりも、何倍も泥まみれだ。 そうして指の先に冷たい何かが当たった瞬間、 急いで勢いをつけて掘り起こす。 タイムカプセルだ。 私は精いっぱいの力を込めて中身を開けた。 見たいのは、自分のじゃない。 君のあの日の言葉だ。 だが、クラス全員の手紙が入っているのと、 震えてなかなか上手く見当たらない。 これも違う。あれも違う。 必死に探し続けた先に、ようやく見つけた。 綺麗に折りたたまれたそれは、間違いない。 黒板で細く綺麗に走らせていた、 彼の字だった。 かしゃかしゃ。軽い紙の音をたてながらその手紙を開く。 私は、ただ。ただ。 その場で泣き崩れて動けなかった。 あぁ。私は、今生まれて初めて、 ちゃんと失恋をしたのだ。 『10年後の僕が、幸せでありますように。』
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