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「森には絶対に近づいてはいけないよ」
他の町と何も変わらないこの平凡町には、そこだけ異空間のように大きな森が町の外れに広がっている。昼でも真夜中のような暗さで危ないから入ってはいけないそうだ。森の入口はロープで封鎖されており、定年退職した年配たちが交代交代で朝早くから夜遅くまで門番をしている。
でもそんな門番たちがいない時間があるのを私は知っている。朝の2時から5時。その時間だけは、監視の目が無く、森の入り口は閉鎖されていないも同然なのだ。
小さな町が寝静まった時、私は目を覚ます。身なりを整えて、親にバレないように足音を消して、息をひそめて家を出る。そこからは全速力で森の入口へと向かって、森に入る前に髪を整えて汗を拭いてから中に入る。
森の中は薄暗い。けれどもう道は足が覚えていた。
この森に私は何度か入ったことがある。前々から「森に近づいてはいけない」と言われているから、気になっていたのだ。一体森の中には何があるのか、と。
小学校からの帰り道に何度も私は森の近くにやってきたが、いつも門番がいて入れなかった。けれどそんな門番がいない時間を門番たちが話しているのを聞いて、一度森の中に入ったのだ。
迷路だった。入ったことをすぐに後悔した。もう二度と帰れないと思った。涙がじんわりと滲んできた。帰りたい、と願った。何度も何度も。
そんな時に、お屋敷を見つけた。西洋風のレンガ造りの大きな屋敷だ。そこだけ木に覆われておらず、日の光を浴びている。神秘的な光景だった。帰りたいという気持ちもその景色によって消えてしまった。
お屋敷から一人の少年が出てきた。漆黒の髪色に堀の深い顔。そしてトマトのように赤い瞳。
「綺麗……」
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