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◇
彼女が来なくなってから10年が経とうとしていた。「また明日」と笑顔で言ってくれた彼女は僕を裏切ったのだ。でもそれを認めたくなくて、僕は夜になるといつも彼女のことを玄関に座って待っていた。何度待っても彼女は来なかった。
僕に飽きてしまったのだろうか。僕は何か悪いことをしてしまったのだろうか。
そんなことをぐるぐると考えながら、僕は地下室に入った。真っ暗な部屋で、そこだけ光を放つ場所に近づく。僕は彼女を見てにまっと笑った。鋭い牙が光に反射して輝く。
「ユカリ……」
僕の記憶の中のユカリがそこにはいた。大きな機械の中で眠るユカリに僕は笑いかける。ユカリは目を覚まさない。まだ未完成の状態では目を覚まさないのだ。早く完成させないと。そうすればこの悲しさもしばらくは埋まるだろう。本当は本物のユカリに会いたいけれど、こればかりは仕方がない。
ユカリの隣にはアネモネが花瓶に飾られていた。今は時期ではないけど、僕の気持ちを代弁してくれている気がして、わざわざ遠くから仕入れてきて飾っているのだ。ユカリとまた会えたら、このアネモネをプレゼントすると決めていた。
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