4人が本棚に入れています
本棚に追加
「食べて」と小さく首を傾げるタケハナを見てからナツは左手でフォークを取りタルトを分けた。底の硬い生地が割れてフォークと皿がぶつかる音がやけに部屋に大きく響いた。口を開けて切り分けたタルトを押し込んだ。
「あー、いいね」とろんとした目で言って床に転がる容器を手に取った。中身は酒のはずだがタケハナはそれを水のようにゴクゴクと飲んだ。ナツは咀嚼したタルトを飲み込んでもう一切れ食べる。タケハナが唾液の絡む変な笑い声を上げた。「美味しい?」と訊ねられたのでナツは黙って頷いたが、正直こんなシチュエーションで洋菓子を食べても味なんてわからない。自分の股間を押さえるように服の上から触り始めたタケハナから目を逸らしてひたすらタルトを食べた。
最後の一口を押し込み咀嚼しながら着ているシャツの裾を捲りあげて口を拭った。「拭いてあげるのに」とタケハナが少し残念そうに言った。それから上気した顔でやけに饒舌に身の上話を始めた。
タケハナはいつもそうだ。ひとしきり興奮し終えるとこうなる。ナツの知らない方言も飛び出してくる。今日はナツに似ているという好きな人の話をしていた。背が高くて痩せていて服の上からでもわかる体の細さが性欲を煽るらしい。どこが似ているのかナツにはよくわからない。タケハナは「あの人のこと考えながら何回オナニーしたかな」とにやけている。返答に困る。何か言うつもりもないが。
最初のコメントを投稿しよう!