緑のない島

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「行かない」ナツは答えた。今日タケハナに発した初めての言葉だった。タケハナの口から紙島の名前が出てきたせいかナツは少年のことを思い出した。こんな場所で思い出したくなかった。  ナツが生まれる前の話だ。きっかけは九州地方に浮かぶ岩礁から発見された鉱石だった。その鉱石から生み出された新素材は瞬く間に人々の生活の一部となった。主に使われたのは通信端末のハード部分であった。薄くて軽く形状は自由自在。加工の過程でも燃やしても環境を汚染する有害物質が発生しない。  夢のようなその鉱石は錬金術師の名から「フラメル」と名付けられた。岩礁は長南グループが買い取り、労働者のための島ができた。これが紙島である。世界中でもここでしか採れない鉱石は日本の通信端末製造をさらにガラパゴス化させた。  それが起こったのは、フラメルが全国の通信端末に浸透してきた頃のこと。突然国内の端末が通信障害を起こした。原因は不明。ひとつだけわかることは、通信障害を起こした端末はフラメルを使って製造されたものであるということだけだった。全国のほぼ全ての通信端末が機能しない状態は一時的なものと思われていたが、結果的には数年間続いた。もはや障害とは呼べない。通信の崩壊だった。
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