緑のない島

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 通信崩壊後の日本は以前の姿と全く変わっていた。情報を遮断された人々の間には明らかな格差が生まれていた。インターネットから情報を得られなくなった時に何をするべきか。何から情報を得て何を信じ何を疑うべきか。その知恵を持つ者と持たざる者の間で貧富の差ができていた。 「馬鹿とそうでない者の差が開いただけだ」と主張する富裕層もいる。それも一部正しい。元からあった格差が通信崩壊によってさらに開いたのだ。そして、その格差は親から子へ受け継がれた。ナツの両親がどんな人間だったのかはわからない。恐らくは貧困層の人間だったのだろう。通信崩壊の時に知恵を持たなかった者。ナツは馬鹿な親の子どもなのだと本人も周囲もそう思っている。  その日、少年は坂の一番上にある集合住宅の前にやって来た。荷台を引く小型バイクに乗ったナツは目を丸くした。少年はホークスのロゴの入ったキャップを被り直すと「後ろ乗せて」と言った。ナツはぼんやりとした頭のまま頷いた。少年は1か所目の集積所から回収したゴミを積んだ荷台にちょこんと座り「出発進行」と前を指差す。ナツは促されるままブレーキを緩めて坂を下る。  頭の中が少し混乱していた。捨てられたパンを分け合うだけの関係だと思っていた相手が突然別の役割を持ち始めたように感じた。
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