緑のない島

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 紙島は通信や電気システムは最新だが下水やゴミ処理に関しては本土と比べて遅れを取っている。生ゴミを自動で粉砕して下水に流し処理施設で浄化するシステムがまだ導入されていないしこの狭い島にゴミ処理施設を建てる場所はない。そして、その不便さ故にナツは服を汚し、また生かされている。島民はあらゆる液体に塗れたナツを避けるでもなく、かと言って関心を持つでもなく一瞥しながら通り過ぎていく。ゴミ収集の様子は紙島の日常の風景の一部だ。  曇り空で見えない太陽が高く上り気温が30度を超える頃、島のスピーカーから童謡のメロディが流れ始めた。滴る汗を拭いながらナツは顔を上げた。歌詞は知らない。メロディだけはほぼ毎日聞いている。12時だ。仕事をしているナツも昼の休憩を取る時間。だが彼はそのまま次の集積所へ向かった。昼の休憩で食べるものなど持ってきていない。これから調達するのだ。  住宅の集積所を回る道すがら小さなスーパーマーケットの裏に小型バイクを止めた。陰に置かれた業務用のゴミ袋には売れ残った食べ物が詰め込まれていた。荷台に移し袋を開けた。手の平の汗をシャツで拭いてからパンを掴んでバイクに跨りながら囓った。変な味はしない。まだ大丈夫そうだ。口の中が乾いて上手く飲み込めない。
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