緑のない島

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 喉に張り付くパンにむせていると少し離れた所からこちらを見ている少年の姿が見えた。目が合った。少ない唾液と一緒にパンを飲み込んだ。少年の身なりはこの島の住民にしては小綺麗だった。本土でもよく見かける服装なのでどこかの学校の制服なのだろう。この暑い中長袖のカーディガンを羽織っている。  少年は一度は目を逸らすがすぐにまたナツを見た。それから辺りを見回し早足で近付いてきた。ロゴの入ったキャップ。目が少し隠れるくらいの前髪。横の髪は耳に掛かっている。見ようによっては女に見えなくもない中性的な顔立ちだ。年齢はナツと同い年か少し上に見える。そして何よりも目を引いたのは左頬から首の辺りにかけて広がる黒ずんだ紫色の痣だった。 「あのー」少年は口を開く。少し左側を向いているため目が合わない。「そのパン何個かくれませんか」と荷台のゴミ袋を指差した。  ナツは「あ」と呟き「えー」と言われたことを頭の中で整理し「いいけど」と答えた。
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