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「そう」少年は「じゃあまた」と行って立ち去っていった。ナツはパンをひとつ食べ終えるとバイクで次の集積所を目指した。まだ居住区の半分も済んでいない。正直このエリアのゴミ収集をひとりで担当するのはきつい。だがこの売れ残りの食べ物にありつけることを考えると悪くはない仕事だとナツは思っていた。指定された時間内に仕事が終わらず船の出港が遅れ事務所の上司に叱られることもしばしばあるが、自分にはこういうやり方しか生きる方法が思いつかない。
夕方になりゴミを満載にした船が本土に戻った。ゴミ処理施設に向かうトラックにゴミを積んで今日の仕事は終わりだ。事務所に行き給料の入った電子マネーのカードを受け取った。表面には「Opidos」とロゴマークが描かれている。ゴミ収集の仕事はオピドス主導の雇用支援策だ。名目上はそうなっている。つまりあの少年はナツの雇用主の家族だ。
パンをあげたことは誰にも話さないと決めている。バレたらナツ自身もあの少年も面倒なことになりそうだと思った。裏面に書かれた自分の名前を確認してからポケットにカードをしまった。上松夏嗣。誰が付けた名前かは知らない。
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