第3章 濃厚甘酸っぱい想い出ベリーティラミス

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あかりは以前、社長に会おうと社長室を訪れたことがあった。 その時はたまたま会えたが―。 忙しい社長と直接会うなんて幸運だった。 もっと確実に会える場所がある。 それは地下の駐車場だ。 会社の前で黒光りした外車から降りる社長を目にしたことがあった。 その後、車は地下の駐車場に移動していた。 車通勤をしているなら、その車を見張っていれば会える機会があるはず。 入院は3日と言っていたし。 もし予定通りなら、退院は明日。 やるべき仕事が溜まっているだろうだから、明日は出社する率が高い。 *** 「星宮さん、具合は大丈夫?」 田中が心配そうに声をかけてきたので、あかりは仕事の手を止めた。 「具合…?」 昨日は頭が痛いと言って早退したんだった。 「ああ…ええ、昨日休んだので、もうよくなりました。ご迷惑をお掛けいたしました」 ニッコリ笑って伝えると、田中は「よかった」と安心した顔。 「じゃあさ、みんなで快気祝いってことで帰りにパーッとさ…」 はりきった時に水を差すようで申し訳なかったが。 「ごめんなさい。今日はちょっと…」 「そっかー、治ったばかりで急だよね。じゃあ、明日…」 「あ、明日は用事があって…」 「そうなんだ…忙しいんだね」 寂しそうにすごすごと去っていく田中の背中を見ながら、仕事に戻る。 今は飲みに行く気分にはなれなかった。 それよりも昨日早退した分を取り返さなきゃ…。 そして明日の帰り、もし社長に会えたら―。
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