第3章 濃厚甘酸っぱい想い出ベリーティラミス

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清原紘一は静かな朝のうちから身支度を整えていた。 今日は仕事に復帰する。 会社に行けばやることが山積みだ。 「おはよう、パパ」 病室のドアから娘の麗華が顔を出した。 「もう準備終わったの?」 「麗華、来なくていいと言ってただろ? 退院の手続きならひとりでできる」 父親のひと言でにこやかだった麗華は不機嫌になった。 「何よ、会社まで一緒に行こうと思ったのに邪魔者扱い?」 「いや、すまん。ただ仕事は? プロジェクトは進んでるのか?」 と、つい気になるのは仕事のことだ。 「大丈夫よ。優秀な部下がちゃんと進めてくれてるから」 そう言われて、「そうだよな、社員は大勢いるのだ」と反省する。 せっかく娘が迎えに来てくれたのに、こうも仕事の話では息も詰まるだろう。 その時、麗華の視線は片隅にある花束に向かった。 「こんな短い入院で花を飾ってたの?」 「ああ、得意先に入院したのがバレてね…もらったんだ」 咄嗟に嘘をついた。 もうひとりの娘からもらったなどと知れたら怒り狂うに違いない。 「地味な花ね」 気に入らない様子の麗華に「パパは好きだけどな」と答えた次の瞬間だった。 花瓶から抜き取った花をそのままゴミ箱に放り込んだのだ。 紘一は驚いて、支えていた松葉づえの片方を離してしまった。 カランと派手な音が鳴る。 よろめきながら「まだキレイに咲いてるじゃないか」とつぶやいた。 麗華は無表情で松葉づえを拾い上げる。 「社長室にでも飾るつもりだった? 花がほしいならまた買えばいいのよ。行きましょ。仕事がお待ちかねよ」 ひょこひょこした足取りで振り返ったが。 結局は娘に引っ張られるように病室を出たのだった。
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