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車内は緊張感に包まれていた。
何を言おうか頭の中を整理していると―。
社長は「君は毎回突然だな…」と呆れていた。
「すみません」
反射的にあかりは言った。
「いや…謝るのはこっちの方だ。済まなかった…星宮さんを巻き込みたくないと思って避けていた。ただ、正直戸惑っているんだ。病院のことといい、今日といい…会いにくるとは思っていなくてね。今も車に乗せてしまってよかったものか…でもまぁ、小林も甲本くんもいるから大丈夫だろう」
自分にそう言い聞かせているようだった。
「小林さんというのは?」
「ああ、そこにいる運転手だよ」
運転手の小林はバックミラー越しに会釈した。
「小林の運転技術は並大抵のものではないし、柔道の達人だ。多少の事は切り抜けられる」
褒められても黙々と運転を続ける。
「それに、後ろの車」
「え?」
振り向くと、一台の車がついてくるのが見えた。
運転席にいるのは甲本だ。
「甲本くんはいつもいい距離感で警護してくれている」
厳重に守られていることを改めて知り、あかりは安心した。
「それで…解決する方法を知っているとかなんとか言ったね…?」
社長から促され、視線をさまよわせる。
「…ここではちょっと」
運転手に話が筒抜けなのが気がかりだったのだ。
「そうだな、ここでは話しづらいか。どこかで何か食べよう…ティラミスは好きかな?」
「はい」
「じゃあ、小林、久しぶりにあそこに連れていってくれ」
「かしこまりました」
小林は見事なハンドルさばきで方向転換すると、後ろの車もそれに続いた。
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