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高級ホテルの最上階のレストラン。
個室の窓から見える夜景は宝石を散りばめたように煌めいていた。
コース料理は芸術作品のように繊細で豪華。
たまの外食と比べてもこんな贅沢は初めてだった。
向かいの席では優雅にステーキを食べる社長がいた。
父親と食事とはこんな感じかなという気持ちになりかけて打ち消す。
今は「社長」として接さなければ。
甲本と小林はそれぞれレストランの外で待機するという。
社長は母の若い頃のことをぽつりぽつりと語り出した。
母とは結婚するつもりで付き合っていたと。
親から反対されるうちに愛想をつかされたのだと、そういった話だ。
ここへも二人で来たことがあると懐かしそうに話す。
共通の話題といえば、母のことしかないのだろう。
そんな中、デザートのティラミスが運ばれてきた。
コーヒーを浸したビスケット生地。
それにマスカルポーネチーズのクリームが層になっている。
ココアパウダーで仕上げられた上には―。
イチゴやブルーベリーやラズベリーが美しく飾られていた。
「ベリーティラミスですね」と、あかりは喜んだ。
「知っているのか? ティラミスにベリー類が乗っているのは珍しいだろう?」
「母は北海道で小さな洋菓子店を経営していました。そこでベリーティラミスを出していたんです。いろんなベリーが乗っていて…カカオと相性がよくて、とても好きでした」
「彼女が店を…。なるほどな。ずっと菓子に携わっていたのか…」
社長は感心して頷いた。
その後、「君たちが北海道でどんな生活を…」と言ってから口をつぐんだ。
「いや、やめておこう。こういうプライベートな話は我々が親子だと証明されてからだな」
フルーツの酸味とコーヒーの苦み。
あかりは母の作った味を思い出しながら味わった。
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