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社長も母との日々を懐かしんで食べているようだったが。
味わっている場合じゃないことを思い出して、手を止めた。
「私ばかり話してしまったね。君は何か情報があるようなことを言っていたが…ハッタリなんじゃないかね?」
「ウソではありません。その前に、ケガについて教えてください。具体的に何があったんですか?」
躊躇しながら「命を狙われたんですよね?」と確認する。
社長は「それを知っているならいいだろう」と語りだした。
「ジョギングに出かけた朝だった。住宅街の狭い道路に差し掛かった時、激しいエンジン音がして…振り返ると、猛スピードで車が迫ってきた。逃げようとして足がもつれ…万事休すと思ったその時―」
残っていたティラミスをスプーンですくって口に入れる。
「甲本が飛び込んで救ってくれた。それで間一髪、助かったんだ」
「甲本さんが…」
あかりは身震いした。
甲本さんがいなかったら社長は…。
想像するだけで恐ろしかった。
「あれは明らかに私を狙っていた…脅迫状は単なる脅しではなかったと、その時にはっきりした」
「それを自分で転んだなんて…」と、あかりはつぶやいた。
「嘘はついていない。間抜けな話だが、ふらついて足をくじいたのはその後だからな。心配を掛けないために、妻にも麗華にも車に引かれそうになったことは話していないだけだ」
「車はどうなったんですか?」
「そのまま逃げ去った。甲本が車のナンバーを覚えていて警察に届けている」
ナンバーまでわかっているなら、運転していた人がわかるのは時間の問題だ。
犯人はすぐに捕まるだろう。
「さあ、今度は君の番だ」と、社長はあかりを急かした。
「その新しい情報とやらは誰から聞いたんだ? 連城か? そんなわけはないな。あいつなら即私に知らせる」
「スバルくんです」
あかりはスバルから聞いたことをすべて話した。
常務が作った脅迫状を見つけたこと、他の2通はスバルから送ったこと。
社長を殺すという計画を盗み聞きしたことなど。
それを聞いて悲痛な表情を浮かべる社長。
「やはり信二だったか…スバルが関わっていると知った時点で、信二の企みだと疑っていたが…あいつは何食わぬ顔で見舞いにも来たのに…」
義理の弟が会社のお金を横領していたかと思えば。
次は実の弟が自分を殺そうとしていたのだ。
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