第1章 ソルティな出会いクラッシュナッツ

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うちの会社? カンセー堂はあんたの会社じゃない。 あんたのパパの会社でしょ。 カンセー堂ホールディングスは日本で業界トップの製菓会社グループ。 主力はカンセー堂製菓株式会社。 国内外に大規模なネットワークを持ち、数多くの菓子を製造している。 あかりも隼人もそのカンセー堂製菓に所属する社員。 そして、この女は社員でもあるけど勤務先の社長のお嬢さん。 「清原…麗華」 名前を呼ばれた麗華は嬉しそうに顔をほころばせた。 「麗華さん、でいいわよぉ。みんなそう呼んでるし。ふぅん、でもそっかぁ…やっぱりわたしって知られてるのねぇ」 同じ会社の人間なら、麗華のことは関わりない人でもみんな知っている。 会社案内なんかの冊子には、これ見よがしに写真が載っているし。 でも、だから知っているとゆうんじゃなくて。 ずっと羨んでいた特別な存在だったから。 麗華はわかっていない…自分がどんなに恵まれているか。 「わたしも星宮さんのこと知ってるのよ」 え? わたしのことを? あかりはドキリとしたが、思っていたのとは違う意味だった。 「隼人さんがいろいろ話してくれたぁ。すっごく真面目な人なんですってね? あとはぁ、牛や馬をお世話してたんですってぇ?」 自分が上の立場だって示そうってわけね? 真面目な人とは、地味でつまんない人って意味? 最後のがいちばん許せない。 牧場育ちをバカにしてる? そんなふうに心の中ではもやもや渦巻いていたけど、結局は黙っていた。 いや、言えなかった。 麗華が持つ肩書きは社長令嬢というだけではない。 人事部所属の社員で多少の権限まであってちょっと厄介。 噂ではリストラの憂き目にあった人もいるとか。 下手なことを言って会社から追い出されることになりたくない。 堂々として輝きに満ちた麗華。 ずっと煌びやかな道を歩いてきたんだろう。 敗北感で押しつぶされる。 何も言えなくてみじめで逃げ出したかった。 そして―。 気がつくと、はじかれたように部屋を飛び出していたのだった。 「あかり!」と、声はしても隼人が追ってくる気配はない。 まだ服を着終わっていないから、外に出るのは無理か。 行きはひとつ飛ばしで駆け上がってきた階段。 3階くらいエレベーターは使わないって張り切っていた。 帰りはそこを一気に駆け下りて通りに出る。 マンションを見上げてみたが、部屋の窓に隼人の姿はなかった。 代わりにカーテンで体を隠した麗華がにこやかに手を振っていた。 こんなの、ひどすぎるよ―。
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