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うちの会社?
カンセー堂はあんたの会社じゃない。
あんたのパパの会社でしょ。
カンセー堂ホールディングスは日本で業界トップの製菓会社グループ。
主力はカンセー堂製菓株式会社。
国内外に大規模なネットワークを持ち、数多くの菓子を製造している。
あかりも隼人もそのカンセー堂製菓に所属する社員。
そして、この女は社員でもあるけど勤務先の社長のお嬢さん。
「清原…麗華」
名前を呼ばれた麗華は嬉しそうに顔をほころばせた。
「麗華さん、でいいわよぉ。みんなそう呼んでるし。ふぅん、でもそっかぁ…やっぱりわたしって知られてるのねぇ」
同じ会社の人間なら、麗華のことは関わりない人でもみんな知っている。
会社案内なんかの冊子には、これ見よがしに写真が載っているし。
でも、だから知っているとゆうんじゃなくて。
ずっと羨んでいた特別な存在だったから。
麗華はわかっていない…自分がどんなに恵まれているか。
「わたしも星宮さんのこと知ってるのよ」
え?
わたしのことを?
あかりはドキリとしたが、思っていたのとは違う意味だった。
「隼人さんがいろいろ話してくれたぁ。すっごく真面目な人なんですってね? あとはぁ、牛や馬をお世話してたんですってぇ?」
自分が上の立場だって示そうってわけね?
真面目な人とは、地味でつまんない人って意味?
最後のがいちばん許せない。
牧場育ちをバカにしてる?
そんなふうに心の中ではもやもや渦巻いていたけど、結局は黙っていた。
いや、言えなかった。
麗華が持つ肩書きは社長令嬢というだけではない。
人事部所属の社員で多少の権限まであってちょっと厄介。
噂ではリストラの憂き目にあった人もいるとか。
下手なことを言って会社から追い出されることになりたくない。
堂々として輝きに満ちた麗華。
ずっと煌びやかな道を歩いてきたんだろう。
敗北感で押しつぶされる。
何も言えなくてみじめで逃げ出したかった。
そして―。
気がつくと、はじかれたように部屋を飛び出していたのだった。
「あかり!」と、声はしても隼人が追ってくる気配はない。
まだ服を着終わっていないから、外に出るのは無理か。
行きはひとつ飛ばしで駆け上がってきた階段。
3階くらいエレベーターは使わないって張り切っていた。
帰りはそこを一気に駆け下りて通りに出る。
マンションを見上げてみたが、部屋の窓に隼人の姿はなかった。
代わりにカーテンで体を隠した麗華がにこやかに手を振っていた。
こんなの、ひどすぎるよ―。
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