第1章 ソルティな出会いクラッシュナッツ

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「まぁしっかし、川嶋も見損なったわ。あたしがその場にいたらボコボコにしてやったよ」 千夏の怒りはおさまらず、矛先を隼人に向けた。 ちぃちゃんならやりかねないかも。 実際千夏は以前、二股をかけられて相手の男を殴ったことがあるからだ。 あかりと隼人が付き合い始めた頃も。 乱暴な口の利き方で隼人をビビらせていたっけ。 「あかりのことをよろしく頼むよ」なんて背中を叩いたりして。 その時の隼人は信州なまりが抜けない純朴な田舎者の青年だった。 目鼻立ちがキリっとした短髪で肌があざ黒いスポーツマンタイプ。 あの頃は浮気をする人とは微塵にも思わなかったな。 突然何か思いついたのか、千夏はスクッと立ち上がった。 「もう言うしかないよ、社長に」 なんでここで社長? 酔うと突拍子もないことを言い出すんだから。 「社長にあなたの娘だって言ってやるのよっ」 それを聞いてギョッとした。 「ちょっと、ちぃちゃん?」 「何の苦労もしていないお嬢さんの麗華ってやつに、あかりの存在を知らせてやらないと悔しいじゃない」 「やだなぁ、今さら名乗ったとしても遺産目当てだとか言われて、会社を追い出されるのが関の山。会社に居づらくなりたくないし」 慌てて否定すると、千夏は怒り出した。 「もうっ! カンセー堂に入社したのは父親に会うためじゃないの? せっかく近いところにいて名乗らないつもり?」 確かに、この会社の面接を受けたのは―。 父がどんな人なのか気になったのがきっかけだったけど。 「…でも調べるうちにカンセー堂のお菓子が素晴らしいって思ったのはホントだし、今は社長のことを遠くで見てるだけで満足ってゆうか…」 「片思いの高校生じゃあるまいし」 あかりの両肩に手を置く千夏は真剣だ。 「そうやってモヤモヤしてるのをカンセー堂の社長も、社長の奥さん、娘の麗華もみんな知らないんだよ。真実を知らせて、悩ませて、復讐してやるべきよ」 「復讐って…」 いくらなんでも…。 母は父のことを恨んでなどいなかった。 だから、あかりも恨む気持ちはない。 「そうだ! で、あかりが次の社長になるの! それがいいわ!」 千夏は叫んで勢いよく拳を天井に向かって突き上げる。 と、その直後、テーブルに突っ伏してしまった。 「ちぃちゃん?」 こうなると揺り動かしただけでは簡単には起きない。 あかりはぐったり眠る千夏にブランケットを掛けてやった。 もう…めちゃくちゃなこと言うんだから。 後を継ぐなんて望んでないけど…。 社長に真実を明かしたらどうなるんだろうか。
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