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それでも春のふりをし続ける冬の陽光に、私達親子は「暖かいね」と、言葉を交わした。それ以外の言葉は特に交わさないまま、弁当屋にたどり着いた。
弁当屋に入り、新商品の中華丼と三百円の海苔弁、そして財布の中と相談して、私の持ち金でカップ豚汁を二つ注文することにした。
椅子に座って待っている母に豚汁をつけた伝えると、「あら、豪華版ね」と喜んでいた。
弁当が出来るまでの間、私達は店内に数脚並んだ簡素な椅子に座って待つことにした。
店の大きな窓からは冬を忘れさせる光が降り注ぎ続けていて、堪らず眠りこけてしまいそうになる。
母は弁当屋の店内で流れるテレビコマーシャルを熱心に、じっと眺め続けていた。
「お父さん、から揚げ弁当が大好きだったっけねぇ」
「あぁ、そうだね。いっつもあればっかり食ってたね」
「みんなで居た頃は私もから揚げ作ってたけど、今じゃ作っても余っちゃうもんねぇ。でも、利幸はまだ若いんだから食べたくなるでしょ?」
「若いったって、母ちゃん。俺、もう五十二だよ」
「五十二なんて、まだまだ若いじゃない。お嫁さんだってまだもらえるわよ。ほら、野村さんの息子さんだって、確か去年結婚したんでしょ?」
「結婚ったって、あそこん家は再婚だろ」
「そうやって諦めるにはまだ早いわよ」
「何言ってんだよ。十万も稼げない掃除夫の所に来る嫁さんなんて、いる訳ないだろ」
――――おまえが原因だよ。おまえさえ、いなければ。
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