冬は春のふりをして

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 自己責任の頭を踏みつけたそんな考えが、ふと浮かぶ。  そんな親不孝な言葉を押し殺し、思い直し、心の奥底を掘って、自省の念を湧き上がらせる。   自分の不甲斐なさを頭に浮かべながら、もっとまともに生きて来ていたならと、これまでに何度も何度も繰り返して来た後悔と逡巡の追い掛けっこが始まる。息継ぎを忘れた想いは、現実の前ですぐに肺を詰まらせる。    こんな時には決まって子供の悪ふざけのような違う現実が、頭に思い浮かんでしまうのだ。   決して仕事で大成している訳ではないが、会社には部下も多くいて、休日の前には長年の友人達と酒を酌み交わすこともある。   日曜日に、妻と子供に「どこかに連れて行ってと」せがまれる。    久々の「お出かけ」に笑みを浮かべる妻や子供達と一緒に、母も新古車で購入したアルファードに乗せ、高速道路を南へ進む。   真昼間のサービスエリアはとても混み合っていて、我先にと駆け出す子供を私は追い掛ける。妻が母の手を取り、ゆっくりと駐車場を渡る。   たくさん買い込んだホットスナックのせいで海へ着く頃には私と子供達の腹がすっかり満たされてしまい、私は妻に小言を言われる。   せっかく海でおいしいもの食べようって言ってたのに。お義母さん、油っこいものばっかでおなか大丈夫?  「私はみんなといるだけで、なんだっておいしいし、嬉しいよ」   後部座席に座る母がそう言って楽しそうに笑って、私は微かに安堵する。    そんな馬鹿げた空想を思い浮かべながら視線を横に向けると、母が着ている灰色のジャンパーの肩口に、ほつれた糸屑がくっ付いているのが目に入る。 このジャンパーを母が着続けて、もう何年になるだろう。  部屋の中に居ても、外に出ても、母はいつもこのジャンパーを着ている。
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