手紙

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「フレッド! アレクサ様はまだいらっしゃらないの!?」 「シュゼット、落ち着けよ。アレクサは来月まで休暇だって言っただろ?」 「どうしてそんなに長い休暇なの? 本当にご病気とかじゃないのよね……!?」 「病気じゃないから安心しろ。あいつも一応、侯爵家のご令嬢だからな。いろいろあるんじゃないのか? とりあえず毎日アレクサの心配ばかりしてないで落ち着けって」 「だって、もう一週間以上もアレクサ様に会えてない……。私、寂しくて死んじゃうかも……」 「お前、本当にアレクサしか見えてないな……」  呆れ顔で溜め息をつくフレッドを腹立たしく思いながらも、その通りなので何も言い返せない。  本当に私はどうしてしまったのだろう。自分でも驚くくらいにアレクサ様のことばかり考えてしまう。  なぜ突然こんなに長いお休みを取られてしまったのだろうか。  私が毎日アレクサ様に会いに行けるなんて言ったから、逃げたくなってしまったのだろうか。  私に何の連絡もしてくれないのは、やっぱり私のことなんてどうでもよくて、むしろ嫌いなのだろうか。  顔を合わせられないから、直接聞くことができずに一人悶々とネガティブなことを考えてしまう。 (……そうだわ!)  突如、天啓のような閃きが降りてきた私は、フレッドの正面に立って両手を組んだ。 「フレッド、お願い! 一つ頼みごとを聞いてほしいのだけど……」 「頼みごと?」 「ええ、アレクサ様に手紙を出したいの。でも、しがない男爵令嬢からの手紙なんて、ちゃんとアレクサ様に届くか分からないし、もしかしたらアレクサ様が嫌がって読んでもらえないかもしれない……。けど、同僚で騎士団長の息子のフレッドからの手紙だったら、確実に届いて読んでもらえるでしょう? だから、フレッドからアレクサ様に手紙を出してもらって、そこに私からの手紙も同封してもらえないかしら……? 困ったことがあったら何でも言えって言ったでしょ? お願い……!」  必死にお願いすると、フレッドはまだ呆れ顔をしながらもうなずいてくれた。 「まったく、お願いごとまでアレクサのこととは……。でも約束したからな。手紙、出してやるよ」 「ありがとう……! さっそく今から書いてくる!」 「はいはい、ごゆっくり〜」  そうして二時間ほどかけて手紙をしたため、フレッドに託した私は、ようやく少し落ち着くことができたのだった。 ◇◇◇  フレッドが手紙を出してくれた二日後。私の元に一通の手紙が届いた。 「差出人は……アレクサ様!?」  なんとアレクサ様が返事をくださった。  震える手で封を開け、便箋を広げ、アレクサ様の整った美しい文字が並ぶ文章を読む。 親愛なるシュゼット 手紙をありがとう。 君に何も言わず、心配をかけてしまってすまない。 どうしてもやるべきことが出来て、騎士団を休ませてもらっている。 体調は問題ないから心配は無用だ。 会いたいと言ってくれて嬉しい。 私も君に話したいことがある。 一通りの(かた)がついたら連絡する。 それまで待っていてほしい。 アレクサ 「よかった……アレクサ様はご無事なのね……」  それに、私もどうやら嫌われてはいないようだ。  思わず、ほぅっと安堵の溜め息を漏らす。 「……ふふっ、『親愛なるシュゼット』だって」  アレクサ様から初めて手紙をもらえたことが嬉しくて、綺麗な筆跡を何度も撫でては読み返す。  そうして、会えない寂しさを手紙で紛らわすこと数週間。  アレクサ様から二通目の手紙が届いた。 親愛なるシュゼット ずいぶん待たせてしまったが、ようやく事が済んだ。 明日、騎士団に顔を出しに行く予定だ。 君も来てくれるだろうか。 きっと君を驚かせてしまうと思うが、一つだけ。 私は私だということは忘れないでほしい。 では明日、君を待っている。 アレクサ  待ちに待ったアレクサ様からの連絡。  私に騎士団まで来てほしいと書いてある。 「やっと、アレクサ様に会えるのね……!」  アレクサ様の頼みなら、どこへだって行くに決まっている。  まるで幼い子供になってしまったように、浮き立つ心が抑えられない。  顔のにやけも全然止まらないので、もうそのままにしておく。 「久しぶりにお会いするんだから、ちゃんとお洒落して行かないと! また差し入れを作って持って行ったら迷惑かしら……?」  明日が楽しみすぎて足が勝手にピョンピョンと飛び跳ねてしまう。 「それにしても、話したいことって何かしら? もしかして、ついに真の友情エンドが待っているとか……!?」  手紙の文面でもアレクサ様は私に対して好意的に見えるし、これは期待してもいいのかもしれない。  ここのところずっとアレクサ様への募る思いが抑えられず、さすがに異常かもしれないと思っていたけれど、ハッピー友情エンドを迎えて名実ともに親友になれれば、少しは落ち着くかもしれない。 「よし、明日はとびきり可愛くしていかなくちゃ!」  まるでデート前日のように、私は鼻歌を歌いながら、明日着ていくドレスを選び始めたのだった。
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