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「『死んだらおしまい』って。言葉。鈴は。優しいよな。
でも、俺は終わりたくない。俺は……ただの残滓でも。鈴を思っていた欠片が残るなら、生まれ変われなくても。いい」
まっすぐな瞳からはもう、涙は流れていなかった。
「……なんて。言ってみてりして」
へらり。と、いつもの笑顔。
堪らなくなって、鈴はその身体を腕の中に収めた。
菫は知っている。街に彷徨うかつて人であったものたちが、繰り返す呟きや思いの残るワンシーン。彼らは擦り切れて消えるその瞬間までそれを繰り返す切ないだけの存在だ。それでも、生まれ変わって幸せになるとか、また出会えたらいいとか、そんな言葉でなく、彼は生まれ変われなくてもいい。と、いう言葉を選んだ。
その印象が彼の持つ柔らかな雰囲気とはあまりにかけ離れていて、鈴の心を抉る。
「菫さん。……菫。絶対に、守るから。どこへも。行かないで」
だから、思わず零れてしまった言葉が、もう、ガキ臭いとか、そんなことは思わなかった。ただ、ただ、その人を繋ぎとめておかないと、なくしてしまいそうで怖かった。
その言葉を選んだ菫が本当はただ、優しいだけの人ではないことに、今初めて気づいた。それでも、最後をおどけた言葉で締めくくった彼が、やはり優しいのだと、思い知らされた。
「行かないよ」
鈴の背をぎゅ。っと抱いて、菫が答える。
「変なこと言ってごめん。本っ当重いよな……」
「……重いです。でも、俺の方がもっと重いです」
そう言って、鈴は菫の手を少し乱暴に引いて歩き出した。
「も。今夜は帰らせてあげられそうにないですから」
鈴の呟きに、菫は小さく頷く。
そんな二人を暗い夜の影が飲み込んでいった。
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