7 それの名を知っている

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「菫さん。こっち、見て」  ふ。と、鈴の唇が離れる。けれど、その顔が離れることはなかった。  唇が今にも触れるほど近くで、その低い声が囁く。  まるで、催眠術にかかったかのように、菫は鈴の方を見た。 「……す……ず」  息が上がっている。喘ぐように呟く言葉に、鈴の眉が切なげに寄せられた、信じられないくらいに綺麗だ。この感情を忘れられるなんて信じられない。  切ない。甘い。優しい。苦しい。嬉しい。柔らかい。激しい。狂おしい。愛おしい。まるで明日世界が終わるみたいな、切羽詰まった感情がどこから来るのか、分からない。分からないけれど、なくしたくないと、心から思った。 「……やだ、……やめな……いで」  鈴の頬に手を伸ばす。今は失うなんて考えたくない。ただ、鈴に溺れていたかった。だから、菫は強請るように菫の方から唇を重ねた。  その拙い口づけに、また、唾液を交換するような深い口づけが返ってくる。多分。数分はそうして、お互いを確認していたのだと思う。浅く息を吐く菫の唇から、鈴のそれが離れる。随分と長くそうしていたはずなのに、名残惜しい。 「ごめんなさい。約束破ります」  不意に鈴は、ぐい。と、乱暴に腕を引いた。  あ。と、菫の口から小さな声が漏れる。それでも、鈴はその手を離さなかった。  離さないでいてくれることが嬉しかった。 「今すぐに。触れさせて?」  リビングのソファに投げ出されて、覆いかぶさるようにして、菫を見つめる鈴の唇から、零れた言葉に心臓が跳ねる。答えを返す前に、鈴の手が脚の間のソレに触れた。それだけで、びく。と、菫の身体は反応を返す。自分でも驚くほど敏感になっている身体が怖いほどだった。  だから、鈴の問いに答えは肯定だったけれど、それを口にすることすら、菫にはできなかった。 「ん。……ん、う」  代わりに強請るような甘い声が鼻から漏れる。きっと、鈴にはそれで十分に伝わったのだろう。スラックスの前を寛げられて、手を差し入れられる頃には、鈴のソレもジーンズの上からでも分かるほどに立ち上がっていた。 「……すず」  躊躇いがちにソレに手を伸ばす。あいかわらず、布越しに触れても、ソレが普通より大きいのだと分かる。 「……菫さん。俺のは……」  その菫の手を止めようと、鈴の手が重なる。 「最後まで。するのは、無理です。だから……」  別に最後までしたって構わないと、菫は思う。鈴は心配してくれるけれど、そんなに簡単に壊れたりはしないし、多少壊れたとしても、鈴がしてくれるならそれでいい。でも、そんなことになったら、きっと、鈴はもう、二度と菫に触れてくれない気がした。 「だったら、余計に……俺にもさせて……ほしいんだけど」  だから、そう言って遮る鈴の手をどけて、ジーンズの前を開ける。言葉とは裏腹にソレは、もう、怖いほどに熱く硬くなっていて、下着をずらすと、飛び出すように菫の手の中に納まった。 「一緒に。……しよ」  鈴を見つめると、その綺麗な瞳はじっと菫を見ていた。目を逸らさずに見返す。
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