7 それの名を知っている

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 夢を見た。  月の光が僅かに射し込む、松の林だ。林の切れた先は見えない。終りは曖昧に霞んでいる。その中に埋もれるように細い道が続いていていた。  指一本動かせない。酷い痛みが身体を支配して、死んでしまったほうがマシだと思う。  けれど、視界は細い道を進んでいた。誰かに抱えられているのだと、頭の片隅で思う。その誰かが触れている場所だけが、温かい。  けれど、その人の顔は見えなかった。  進んでいく視界の向こうに、建物が見える。赤い……柱。  頬に何かが落ちてきた。  月は輝っているのに、雨だろうか。  雨雲がないのに、降る雨。それが何というのか、知っている。  だから、理解した。  最期に伝えたいことがある。  そうして、口を開いた。
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