2 昔話とサッカーチーム

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2 昔話とサッカーチーム

 昔々七里塚の竜胆ヶ原の近くに一匹の化け狐がおった。とても大きな化け狐で身の丈は6尺5寸。普通の狐とは違い黒光りする毛皮を持っていた。  狐はたいそうないたずら者で、5匹の手下を従えて、人に悪さばかりをしておった。  あるとき村の庄屋の娘の花嫁行列を見かけた大狐は、雨を降らせて花嫁行列を足止めした。それから、手下5匹のうちの雌の狐を美しい娘に化けさせて、娘の代わりに輿入れさせ、自分たちは従者に化けて、花婿が用意した宴の酒やご馳走をすべて食べてしまったそうな。  またあるとき、村一番の剛力の相撲取りが、大好物のおはぎを付け人に買いに走らせたのを見ては、自分は力士に化けてそれを全部食ってしまった上に、術をかけた馬の糞をおはぎだと言って手下に届けさせ、力士がよろこんで食らうのを見世物にして大いにあざ笑った。  それから、また、お殿様に差し上げる年貢を積んだ大八車を10人もの屈強な男たちがうんうん。と、唸りながら運んでいるのを見かけると、また、女狐を娘に化けさせて、大八車の行く先でさめざめ。と、泣いて見せたそうな。  娘の美しさにたちまち虜になった男たちがどうしたのかと尋ねると娘は「この先で乗っていた馬が川に落ちてしまい、私の従者では持ち上がりません。私は本日中に隣村に御文を届けねばなりません。どうか。お助けください」と、答えた。涙ながらに語る美しい娘に同情した男たちは、自分たちが助けてやろうと申し出た。  けれど、米俵を積んだ大八車を放っておくわけにもいかない。男の一人が「半分はここで見張りをしよう」と、提案した。しかし、娘は「大変大きな馬なのです。半分では上がりますまい」と、言う。そこで「ならば、三人は残って見張りをしよう」と、提案した。けれど、娘は「七人でも足りますまい」と、言う。すると、男の中の一人に「我ら10人でもようやく運べるような車を運べるやつなどほかにおるまい。なに。馬などすぐに引き上げて戻ってくればいい」と、申す者がいた。  男たちは頷き合い娘に教えられた川の方へと向かった。しかし、馬はどこにもいない。これは騙された。と、気付いた男たちが慌てて取って返すと、身の丈6尺5寸もある大男が片手で大八車を引いて去っていくところだった。驚いた男たちは去っていく大男の姿を見ているしかできなかったそうな。後で考えてみたが、「車を運べるやつなどおるまい」と、申したものは10人の中にはおらなかった。  近くの5つの村の村人たちは狐の悪さに困り果てて、寄り合いを開いて、狐を退治したものに恩賞を与えることにした。そして、何人もの男たちが狐に挑んだ。しかし、狐は年を経た化け狐で、不思議な術を使う上に、大層な剛力でどんな腕自慢の武士も、力自慢の力士も、知恵自慢の学者も退治することはできなかった。
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