始まりの日

2/6
前へ
/50ページ
次へ
 わずかな朝食を食べ終えると私は外に出て表の掃き掃除をはじめた。  枯葉舞う季節なので結構な大仕事だが、それだけにやり甲斐もあり私はせっせと箒を動かして枯れ葉の山を築く。  そうして玄関周りが綺麗になった頃、愛莉がガラリと扉を開けて出てきた。  美しい織物の着物を身につけて後ろには義母も控えていた。 「ああ、せっかく新しい着物を仕立てに行こうと思ってウキウキしていたのにお前の顔を見るなんて、最悪の気分だわ」  愛莉はそういうと私が掻き集めていた枯葉を足蹴にして散らしてしまった。 「嫌だわ。こんなに散らかして。ほらなにぼーっとしているの?早く綺麗にしなさい」  クスクス笑いながら歩み去る後ろ姿が涙で滲む。  でも泣いていてもなにも始まらない。  私はぐっと悔しさを押し留めて箒を握り直してまた一から掃き掃除を始めた。  その時南雲が箒を持って一緒に散らかった葉を集め始める。 「南雲、ここは私の担当だからいいのに…」 「いえ、お嬢さまが1人でやるよりも一緒に掃いた方が早いですから」  南雲はそういうと、て早く掃き掃除を始めてあっという間に玄関周りは綺麗になった。 「ありがとう。おかげで早く終わったわ。少し厨房で休みましょうか」  南雲は頷くと私の箒を取りあげるとそっと手を包む。 「お嬢さま、手が冷えています。それからこれを」  南雲は懐から軟膏の瓶を取り出すと私に握らせた。 「南雲!こんな高価なものどうしたの?」 「もうすぐお嬢さまの18のお誕生日ですから。早めですがお祝いです」  私は南雲の優しさにジンと胸が温かくなった。  受け取るかしばらく迷ったが、彼の心遣いを拒絶するのもしのびなく、ありがたく使わせてもらうことにした。 「南雲、ありがとう。いつでも貴方がいてくれるから私は頑張れるの。これからも側にいてね」 そう言うと南雲は何故か寂しそうに微笑みそっと手を離した。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加