始まりの日

5/6
前へ
/50ページ
次へ
 しばらく馬車はガタガタと走る。  クッションのない板の椅子のためお尻が痛くなったがこれからの生活を思うとそんなことどうでも良かった。 (オークションで売られる。私はどんな人に買われるのかしら)  そんなことを考えていると、馬車が止まり、扉が開いた。 「さっさとおりな。ついておいで」 女は私を引き連れてとある店に入る。 格子戸の中にはしどけた美女たちが気だるげに座って男たちを誘っている。 (ここは花街なのね)  連れてこられのは街で1番栄えている花街、通称竜宮だった。 「お前は大切なオークションの商品だからね。その日まで納戸で監禁させてもらうよ。逃げ出そうなんて馬鹿なことさえ考えなかったら3食食べさせてやるし、風呂にも入れてやる。いいね。もう一度いうけど逃げ出そうなんて考えるんじゃないよ」  そう言うと沢山の布団が収納されている納戸におしこめられて私は絶望感でいっぱいになった。  やがて夕食の時間になったのだろう。幼い禿が私に食事を運んできた。 食事には食後の菓子も添えてあったのでそれはお礼として禿に包んであげた。 「ありがとうございんす」 柔らかな声の可愛らしい禿は微笑むと菓子を大切そうに抱えて部屋を出ていった。  残された私は暖かなご飯をいただき、そのあとは監視の女郎と男衆に連れられて風呂屋に行ってピカピカになるまで肌をぬか袋でらみがかれてからまた納戸に戻った。  この店の者は皆、私が商品で大切に扱わないといけないものという事が浸透しているらしく、皆私のことを大切に扱ってくれた。  たとえそれがお金を稼ぐ手段として親切にしてくれていると分かっていても私は嬉しくて納戸で過ごす日が楽しかった。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加