オークション

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 そこからしばらく後、時間にして30分ほど経った頃だろうか。  扉がコンコンと叩かれて1人の仮面で顔を隠した男性が入ってきた。  男は声を発することはなく、屈強な長身を揺らして私の元に歩み寄ると、片膝をついて私の手をとり、手の甲にキスをした。 「あの…これは一体?」  私は戸惑ってしまった。  確かに奴隷として売られたはずなのに、飼い主から姫のような扱いを受けるとは思っても見なかったのだ。  そこに1人のメイド服を着た女性が入ってくる。  彼女はどうもこの男性のメイドらしく、男性に耳打ちをしてから私の手にはまった手錠を外してくれた。 「初めまして、私はミツと申します。本日より静音様のお世話をさせていただくことになりました。主は事情があり声を発することが出来ませんが代わりに私が意思をお伝えいたします」  そう言うと主と呼ばれた男性の一歩後ろに控えた。 「あの…私はこの方をどうお呼びしたらよろしいでしょうか?貴方のように主…とお呼びしたらいいのでしょうか」 「いえ、雷牙様とお呼びください。主は名前で呼ばれることを望んでおります」  ミツは冷静な声で驚くことを言った。  奴隷の身分で主人の名を呼ぶことは普通ありえない。 「雷牙様…これからよろしくお願いいたします」  私は望まれるままそう呼ぶと雷牙の広角が上がった。  (喜んでいらっしゃるわ。ただ名前を呼んだだけなのに) 雷牙は私の手を取ると淑女をエスコートするように私の手を取ると部屋を後にした。
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